尖閣問題

2週間の米国旅行中、グーグル・アンドロイド経由 で日経を読んでいていて世の中の動きを追って いたつもりだが、ヒューストン国際空港に着いたとき、書店にあったEconomist誌の表紙をみて衝撃をうけ、これを買い求めて夢中で読んだ。表紙に尖 閣列島が写っていてその上に"Could China and Japan really go to war over these"とキャプションがあり、手前のカメが"Sadly, Yes"とつぶやいたためである。

NHKのディレクターだった友人Oが私がシカゴにでかけ、フェルミ博士のゆかりの地を訪ねる話で1978/4/10放送、NHK特集「あの時世界は―マン ハッタン秘密計画―」(キャスター:磯村尚徳)という番組のDVDを送ってくれた。主役はレオ・シラードだが、フェルミもアインシュタインとともに重要 キャラクターの一人として登場。彼は当時、映像編集者として参加し、歴史ドキュメンタリーの面白さに目覚めたのがこのシリーズだったという。

ついでに「天安門・激動の40年〜ソールズベリーの中国〜」(1989)。前後編もおまけにつけてくれた。これはディレクターに転向した後の番組だが、希 望して「編集」をやらせてもらった思い入れのある番組だという。中華人民共和国成立から89年のブラックサンデーに至る中国の足取りを、一人のニューヨー クタイムズの元ベテラン記者の視点で(いまなお根強く存在する毛沢東信者には反発必至の視点で・・)辿る番組だが、特に文化大革命をはじめとする権力闘争 の内側を内側から描いている。いま、中国という巨大な国を理解する材料になるのではないかと思うとコメントしている。映像使用権契約上再放送もDVD販売 もできないものだそうだ。な ぜかというと主役のソールズベリーが天安門事件の瞬間北京に居たという幸運に恵まれまれてできたものだからだ。北京の中央電視台(国営)と共産党の協力で 取材を進めていたが、ブラックサンデー勃発後は対応が180度変わり、取材班とソールズベリーは香港経由で命からがら中国を脱出したという経緯があるしろ ものだという。日本で番組が放送されると、ケ小平がカンカンに怒り、取材班が世話になった中央電視台の幹部数人が下放された。当時の通訳は日本に逃げ出し て、しばらくNHKの国際局で働いていたという。

1962年の高崎達之助がはじめたLT貿易、1971年のニクソン訪中、1972年の田中・大平による日中正常化後、現在の中国があるわけだけれど、尖閣 列島に関し、田中角栄の突然の言及に周恩来が答えなかったということは中国側にとっては国境問題は後の世代に残したという理解になるのだろうと感じる。外 務省も内 心そう思っているふしがある。だから外務官僚は二枚舌と言われるのだと思う。

中国の次期権力者の習近平が反日デモを煽っているとか。これも周恩来の残した宿題に答えようとするのか、はたまた自分の権力基盤を固めるためなのか。自分の 権力のためには何でもするのは中国の指導者に限らず日本も同じ。福島の汚染された農地にメガソーラー建設するのを農水省の役人はOKしないという。自分の 領地だと勘違いしているようだ。

独裁体制は安定していて周辺国は恩恵を受けるが、変化するときは大きく動く、周辺国は巻き込まれて迷惑。結局周辺国は団結してこの巨人を囲い込んでゆくし かない宿命にあるのだろうか。

October 1, 2012


その後の新聞論調を読んでいると日本側の報道は次第に冷静になってきている。日経ビジネスの遠藤誉の記事で は日本政府が中国への侵略を反省しなかったように中国も文化大革命(1966〜76年)を総括するに当たり、「毛沢東」を否定していないことに遠因がある という。なぜなら毛沢東思想は「不平等を生む自由競争や、人民が自分の利益のために金儲けをするなどということは許さない」という考えで貫かれているから だ。金儲けを目論む者は「走資派」(資本主義に走る者)として反革命分子扱いされ、文革の際には激しい批判を浴びて牢屋にぶち込まれていた。だから「人民 が個人的に金儲けをしていい」ことを根本とする改革開放路線は、毛沢東思想とは相いれない。それでいて中国共産党の党規約には「偉大なる毛沢東思想」とい う言葉が残っている。いま毛沢東は「神格化された巨像」となって、中国共産党体制に迫っているというのだ。中国共産党体制と中国社会の「危うさ」は、実は ここにあるというのである。

改革開放の恩恵に与ることのできなかった「負け組」の人たちがデモ隊を主として構成していた。今回のデモは「毛沢東万歳派」以外は組織的ではないので、大 学生はほとんど参加していないという。毛沢東は人々を都市戸籍と農村戸籍とに分け、知識人が都会に集まって反政府運動を起こさないように、農村にい る者の移動を禁じたことから始まるという。改革開放後における中国の経済発展は、都会に集まる農民工の力なしには成し遂げられなかった。しかし「蔑視」 という差別の目と、福祉等におけるあまりの待遇のギャップにより、都会に集まっている農民工が反乱を起こすリスクが生じた。それを抑えるために待遇改善を重 ねてきた。ところが1990年代の後半からインターネットが普及し、中国全土のどこにいようと、世界の裏側にいようと、情報は瞬時に共有できるようになっ た。都市戸籍だ、農村戸籍だと、「移動の自由」を奪うことによって同一意見の持ち主がグループ化するのを防ぐ時代は終わったのである。新世代農 民工は、福祉や戸籍においても、都会にいる若者と同等になっている。にもかかわらず、二極化された貧富の間にあるギャップ。豊かになるチャンスは、共産党 幹部の周りに集中しており、そこに利益集団が形成されている。新世代農民工の怒りはここにある。同じ都市戸籍を持っていても、おそらく永遠に埋められない 「溝」に怒りをため込んでいるのだ。華麗に膨張する中国から取り残され、埋めようもない格差を厳然と突き付けられる日夜。

中国政府が恐れているのは、デモは「やらせ」とか「やらせでない」とかといったレベルのことではない。ましてや「党内派閥闘争のために誰かがやらせた」と いうデマでもない。そんなことよりも、もっと恐れている現実があるのだ。それは中国共産党政権を崩壊させるかもしれない「民の声」である。富んだ者たちが 形成する中間層の権利意識も膨張しつつある。そのかじ取りを、どうするのか。愛国主義教育を抑制する勇気はあるだろうか。多くの矛盾を抱えながら、まもな く新政権が生まれる。習近平には、波乱の船出が待っていると結んでいる。

以上は歴史的分析。次は週刊現代が報ずるトップの権力争いに尖閣が利用される可能性だ。すなわち江沢民ー習近平体制を打ち破るために胡錦濤総書記は 18条規定をつかうのではないかという推測である。18条規定とは中国共産党章程の条項で非常事態でないかぎり2013年3月開催予定の全国代表大会を招 集し、胡錦濤は主席を習近平にゆずらなければな ければならないという約束事だ。浅慮な日本政府の国有化宣言で中国人民を怒らせたことを口実に尖閣列島奪回の対日宣戦布告すれば全国代表大会は延期でき胡 錦濤総書記は居座ることが可能となる。習近平も反対はできない。軍事評論家の鍛冶俊樹氏は中国軍はまず漁民を装って尖閣に上陸する。次に漁民保護を大義名 分として南京 軍区の福建基地からヘリで上陸し、そのまま駐留するのが中国軍の戦略だろうという。中国軍は多量の地対空ミサイルを帯同するのでひとたび占領されると島の 奪回は困難を極める。したがって日本は中国軍より先に島に到達する必要がある。このときオスプレイが役立つという。米軍が急いだのはこのため。加えて米軍 はジョージ・ワシントンとジョン・ C・ステニスが西太平洋に展開しているという。通常は冬にはいると横須賀で定期検査にはいるのだが、それを延期している。パネッタ長官は習近平に尖閣に手 をだしたらステルス戦闘機ラプターと第7艦隊の原子力潜水艦ミシガン、オハ イオ、フロリダからミサイルを発射して中国のレーダー網と新型対艦ミサイルを破壊するというシナリオを見せて牽制したという。

October 10, 2012



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