言語録

シリアル番号 日付

1609

 2018/3/11


名言 賊軍の大敗するや、榎本釜次郎 曽て阿蘭陀国に学ぶ所の万国海律全書二巻を官軍に贈る…官軍参謀等 書を榎本に与へて曰く、本邦無二の宝書烏有(うゆう)に帰するを惜しんで寄贈す。辱(かたじけな)く厚意を謝す。

Shortly before this, when the rebel army was so severely defeated, Enomoto Kamajiro sent a present to the royal army consisting of two volumes of ‘The complete digest of maritime laws of all nations,’ which he has formaly studied when in Holland. The Millitary Counsellors addressed a letter to Enomoto, in which he said: “We thank you for presenting us with two volumes the like of which are not found in Japan, out of regret that they should become the property of crows.

translated by Ernest Mason Satow
Kinsé shiriaku A history of Japan, from the first visit of Commodore Perry in 1853 to the capture of Hakodate by the Mikado's forces in 1869.
言った人、出典 明治五年山口謙著『近世史略』
引用した人、他 「烏有(うゆう)に帰す」は漢の詩人司馬相如の「子虚賦(しきょのふ)」が起源で「烏有の事」ということばは、小説などの虚構、こしらえ事を意味するようになった。
友人田中利一が『烏有に帰す』をアーネスト・サトウが『烏の持ち物になる』と訳しているらしい。あれほどの日本通がこんな間違えは一寸ヘンではと疑問を呈す。
友人清水謙は原文を見ずに「Ravenの所有に帰す」としたとすれば流石Satow、驚嘆の極み!Satowならではの英語訳だと断言。実際はcrowと いう語がつかわれたわけだけれど、程度の差はあれど意味は分かる。それに英語国民はギリシアの故事は知っていたとしても漢の詩人司馬相如のことなどは全く 知らないわけだから漢字の「烏」の意味を有効利用するのが賢いと言うものではなかろうか?
 
アーネスト・サトウは一通詞から身を起こし、明治政府の成立を支援し、後、英国の駐日大使になり、サーの称号も得た。これは英国政府の人材登用が合理的 だった故である。翻って我が国をみると権力者に媚びる人間ばかり。国のその後の勢力をみればこの人材登用の巧みさの差が見えるようだ。

ところで現在の英国大使館の庭にアーネスト・サトウが植えた桜の大木があるという。千鳥ヶ淵の桜もこれにちなんだものだという。


その後、清水氏は

彼のヘボン式ローマ字の祖James Curtis Hepburnが1872年(明治5年)に出版した『和英語林集成』(美国平文先生編譯)に「UYU ウイウ 烏有 (aru koto nashi) Nothing, naught: −ni kisuru, to come to naught.」とあるのを見つけました。

Ernest Satowがこれを見たかどうかは分からないが、Hepburnは "to come to naught" と訳語をつけてるので、Satowがそのまま使えば "become the property of crows" とはならない、或いはしないということになる。Satow訳の謎が深まったような気もするが、小生は依然としてSatow訳は秀逸だと思う。"come to naught" では意味は通じるがあまりにも平凡。

清水さんがヘボンの方が先としているのは1872年の出版と言う事実と(Hepburnの滞在期間は1859年−1892年)に対しアーネスト・サトウの若い時の滞在期間は1862-1883年。公使になってからは1895-1900年だからのようだ。


原文を見つけた手順:

Google検索窓にErnest Mason Satow+ history +Japanと入力。

85件の検索結果の10番目にSatow, Ernest Mason, 1843-1929 - The Online Books Pageとでます。本を購入するつもりがないのでこれが最適。

これは無料でイメージとして読める電子図書リストです。この中に

Satow, Ernest Mason, 1843-1929: Kinsé Shiriaku = A history of Japan, from the first visit of Commodore Perry in 1853 to the capture of Hakodate by the Mikado's forces in 1869 / (Yokohama : "Japan mail" Office, 1873), also by Ken Yamaguchi (page images at HathiTrust; US access only)

というのがあります。これクリックすると

https://catalog.hathitrust.org/Record/102138535

というページが表示されます。ところがこれはなぜか鍵がかかっていて開けることができません。多分、メンバーオンリー。そこで次のリストをクリックすると開きます。

ページをめくってゆくとHakodateとでてきますので近いと丁寧にめくるとその145pに問題のフレーズがありました。

https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=uc1.$b296213;view=1up;seq=167

ビンゴ!!

Rev. April 8, 2018

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