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1374

廃棄物移動床式ガス化燃焼
2012/12/31

官邸デモの時、友人の西沢君に株式会社ASK商会開発のERCMという廃棄物焼却装置なるものを聞いた。セラミックスの遠赤外放射とか、陰イオン注入だと か、いかにも疑似科学的キーワードが並んでいる。空気は供給する必要はなく、ゴミの有機物中の酸素だけですべて二酸化炭素になるという。ま すますおかしい。だが実際にこの装置は各地の自治体が導入して動いているという。宣伝文句はあやしいが、使い物にはなっているらしい。あのオッパイモミモミのNHKの森本健成アナも担がれて2011/11/27のおはよう日本で「酸素なしで処理できる」と宣伝。

そこで詳しい資料を 西沢さんからもらってよんでみた。説明文はやはりいかがわしい文がならぶ。にもかかわらず信州大学名誉教岡埼光雄某の推薦状もあるし、日本特許、米国特許も取得している。しかし実装置の写真をみて、なぜこれがうまく 動いているのかすぐわかった。円筒または楕円形断面の鋼鉄製の垂直容器の脇腹にブロワ―の空気をヘッダーで分け、5m3/24hの処理能力の窯の胴の横から48個のノズルから空気を吹き込むようになっている。 そして各ノズルのところにガスライターの点火器の原理の、ロッシェル塩などの結晶に振動を加えて発生する高電圧を注入空気中に放電して直接空気中に電子を 放射し、負イオンを発生させると称するアンデス電気製ITM-F201がついている。

マイナスイオンとは空気中の過剰電子によりイオン化した分子の陰イオンをあらわす和製英語として用いられるとされている。しかし、実際には科学で言うところの陰イオ ンとは無関係であり、大阪大学の菊池誠教授は「イオンという科学用語を使用してあたかも科学的に立証されているかのように誤解を故意に与える疑似科学・オ カルト・霊感商法として関連物品の販売に使用されているのが実情である」という。私はこの負イオン発生器またはマイナスイオン発生器なるものは必須なもの ではないと思う。電荷を帯びた原子、または原子団をイオンというのだが、気中放電で電子が酸素分子にくっつい てマイナスの静電気を帯びるのか、酸素分子が電子を受け取っ て単原子の酸化物イオンになるということは酸素分子の結合がきれてプラズマになるのか?仮にプラズマができたとしてもすぐ再結合し てしまい、ガス化窯の有機物までは達しないのではなかろうか?空気清浄機として販売されているものと似ていて大した消費電力でもないようだからいずれにせ よできたとしても少量だろう。こういう反応は触 媒表面のオングストロームオーダーの電子のやり取りでしか生じないのではな いかと思う。そもそも空気中で高電圧でコ ロナ放電させればオゾンやNOXが発生する。オゾンは還元雰囲気での酸化反応を促進するかもしれないがアンデス電気製ITM-F201はオゾンは発生させ ないという。アンデス電気は圧電素子で発生する高電圧で酸素に電子を放射しマイナスの静電気を持たせると説明している。この静電気が燃焼反応を促進するの だろうか?その場合、ゴミはプラスの電位をもっていなければならないがどのようにゴミにプラスの電位を与えるのだろうか。多分放電針と反対電極をガス化に アースすればこの装置自体がプラスになっているということかもしれない。もしこれがほんとうなら、あらゆるボイラーへの供給空気にこの小さなマイナスイオ ン発生器なるものをつけたらいい。まともなエンジニアはそんなことをしても意味はないとおもうだろう。それでも自動車エンジンの空気インテークにつけたら 馬力が増えたなどの怪しい機器の広告はよく見る。もしほんとうならトヨタやニッサンが標準装備するはず。だからアンデス電気製ITM-F201はあっても なくてもよいお飾りであろう。

多分特許にする ため、または売るためのお飾りなようなものにすぎないのだろう。5m3という規模で48個という沢山の点から空気を少しずつ注入することこそが本質的に重要で、それゆえこれは使える装置 な のだ。ASK商会作製のビデオによれば楕円形断面の鋼鉄製の垂直容器の底に灰を20cmの厚さに敷き詰め、その上に着火した木炭を一面に敷き詰める、そし て上のハッチから鉋屑を一杯に充填し安定したら上からプラスチックなどの有機廃棄物をセミバッチで投入する。この廃棄物は下から上がってくる乾留ガスが脇 からはい る空気で燃焼し、その熱で乾燥する。乾燥した廃棄物は下の炭化相で発生する高熱の部分酸化ガスで加熱され乾留され炭化する。こうして生成した炭は脇から注 入される空気で部分酸化して高温の一酸化炭素からなる部分酸化ガスを発生し、残りは灰となって下に溜まる。その温度は約1000°Cである。 理論空気より少ない空気で還元雰囲 気を作り、発生した部分酸化ガス、乾留ガスを上の層で順次段階的に少しずつ空気を加えて完全燃焼させ、その熱で有機廃棄物を乾燥させるのだ。ただ比較的低 温での燃焼のため、一部有機酸化物は完全に二酸化炭素に変換されず、出て来る排煙の温度は50°C程度だ。これを25°Cから10°Cまで冷却すると木酢 液が凝縮回収される。ちょうど炭焼窯で回収されるものとおなじ成 分で、これはこれで有機農業に使える。

最 下層に溜まる灰をセラミックスと称し、そこから遠赤外線放射するなどという説明も笑止千万。まったく似非科学的用語を使った説明だ。遠赤外線といえども貫通 力はそれほどない。加熱は下からの高温ガスの流れによって行われる。はじめに厚さ20cmに灰を敷き詰めるのは断熱材として使っているのであってけっして遠赤外線の放射のためではない。これも疑似科学的説明で困る。日 本 の科学教育はどうなっているのだろうか?すくなくともこのパンフレットを書いたりビデオを作った人は正規の科学教育はうけていないようだ。燃焼空気をマイナスイ オンというインチキ用語に置き換えたところなど犯罪的だ。多分イオン発生器の電源切ってもおなじ性能がでるとおもう。多分しっかりした知識のある真の設計 者は別にいるのかもしれない。それはこの機器製作業者などだろうか。動かない装置を作ってしまっては結局彼も損をするからだ。株式会社ASK商会は単なるセール スブローカーなのだろう。イオン発生器などは無害なお飾りなのだから眼をつぶろうということかもしれない。またはイオン発生器の能力がちいさいので沢山必要となり、結果空気注入口の数が増えてたまたま成功したのかもしれない。

いずれにせよ、このような疑似科学的用語満載のセールス文書に自治体の職員がだまされて購入したのなら日本の科学教育レベルは落ちたものだと思 う。実績をみて独自に判断して買ったなら、評価してもよいがそれでも税金の無駄使いかもしれない。温度計を見ながら48個くらいあるノズルの空気量をうまく調節すればなんとか使えるが、酸欠状態で燃す、一種の徐燃装置 だから、運転は難しく、滞留時間が長く、高速燃焼の焼却炉に比べ、大量処理するためには装置が大 型化、複雑化して金がかかりそう。5m3は成功している。そしてその機器価格は1.5億円である。しかしスケールアップすれば窯の中心部には空気が行き渡らず、未燃物の山が残り、動かなくなるのでは?空気を分配するパイプを水平に挿入すれ ば移動床が動かず、垂直に上から挿入すれば二重ドアのゴミ投入口を設置する場所がなくなる。運転も沢山の空気注入弁を温度分布をみながら微妙に調節しなけ ればならないし、セミバッチとはいえ、廃棄物は連続して供給しなければ移動床 の安定な維持ができない。現在の昼だけ勤務体制では対応できないだろう。小さな自治体ならいいかもしれないが大きな処理量が必要な 市などは装置を多数個並列に設置しなければならないかもしれない。また不完全燃焼で発生する低分子の有機酸などの有機酸化物が排煙中にまじるので排煙を冷 却して凝縮水として分離せざるをえない。この不純物の回収設備に多大なコストがかかる問題もある。ただメリットもあって補助燃料はスタート時の着火した木 炭だけで連続運転すれば一年に1 回窯をあけて灰を掻き出すだけだから省エネではある。

なにも分からないメディアが受け売りで放射能が灰に入らないなどおいうが原理的にありえない。重金属もタイヤの鋼鉄のワイヤもビール瓶もそのまま灰まぶれで底に溜まる。


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