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1296

パラグラフ

2010/07/15

学士会報2010/7号の外山滋比古氏の「知識と思考」というエッセーより。

氏は日本語は源氏物語の時代からパラグラフを持った歴史がない。明治政府はパラグラフを示すため1字下げるしきたりを導入したが日本人はパラグラフの構造に注意を払うことはなかった。そのため「欧米の言語構造が、パラグラフ単位で意味を積み上げていることを見落としている」と指摘。このため不用の箇所を切ってゆく ことが可能となり、そのたどり着く先に俳句や短歌がある。

英文を翻訳するとき語順を入れ替えて日本語として理解できるようにするのと同じく、パラグラフの中の文章の順番を入れ替えないと日本語として理解できないことになることが理解されていない。逆も真なりでパラグラフ内の文章を入れ替えないと欧米人に日本の思想は伝わらない。

氏はパラグラフの中にこそ、思考・思想・考え方が表れるという。

欧米のパラグラフは3部に分かれている。最初の3行に抽象的で最も重要な点が書かれる。ついで「例えば」「そこで」という言葉をきっかけとして最初の抽象概念を敷衍する話がでてくる。そして最後の2、3行でもう一回抽象的になる。こうしてパラグラフは抽象・具体・抽象の三層構造となっている。最初の一般論の動詞は現在形。真ん中の具体例は過去形、そして最後の一般論は現在形となる。

日本語は手紙でも用件を切り出さず、無駄な言葉を連ねて最後に用件をいう文化である。日本は富士山型、欧米は逆ピラミッド型である。

言葉は元来知識を与え、伝えるものだが、知識より上のレベル、ものの考え方や思考が伝わるのはパラグラフの次元である。単語や文は知識で理解できるが、考え方はパラグラフが表現している。考え方とは文法でも論理学でもなく、心理学に属する。

日本人は単語と文で欧米の知識を吸収したが動詞がものの考え方や見方を現すということを学ばなかった。

英国でロイヤルアカデミーのトーマス・スプラットが「今のイギリスの英語は、十分に我々の新しい考えをうまく表現できない。これは文化を生み出すには、新しい英語をつ くらねばいけない。少なくとも学者や知的な人間は、今までのような情緒と感覚を中心とした曖昧模糊たる表現をすてて、明晰で論理的で分かり易く面白いことの言える言葉を作らなければいけない。そういう英語に」と提唱した成果がニュートンであったという。


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