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シリアル番号 表題 日付

1261

新幹線の軌条の開発

2009/12/15

元宇部興産の萩原定秀氏のお話し

昭和34(1958年)頃、新幹線総局の島技師長の指揮の下に新幹線の開発がはじまった。軌条の有機材料開発担当の松並技師がプラスチックメーカーの技術陣を田町にあった鉄道技研木造二階建ての建物に 素材メーカーの技師達を集めた。このなかにまだ若かった荻原氏がいた。

軌条の在来システムはクリ材の枕木に犬釘でレールを固定していた。新幹線は継ぎ目なしのロングレールにするために頑丈な枕木が必要となった。そこで枕木をプレストレス・コンクリートにしたいという。このときレールと枕木の間に挟む軌道パッド、犬釘の代わりにコンクリートと締結ボルトをつなぐメスネジ型の埋め込み栓、レールをボルトで押さえ込む主ばねのばね受台を有機材料にしたいというものであった。

参加メンバーの自由討議で最適の材料を選んだ。

軌道パッドは合成ゴムと簡単に決まった。

埋め込み栓の素材の候補としては熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂、反応硬化性樹脂として不飽和ポリエステルがあったが、最終的には熱を加えなくとも固まる石綿ー不飽和ポリエステルと決まった。これはプレストレス・コンクリートの養生に水蒸気をつかうので相性がよかったためである。

レール幅調節(軌間調節)のため上から見てウェッジ型になっているばね受台の候補としては熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂のナイロンが上がっていた。最終的にはオイル煤系のカーボンを添加したナイロン6に決まった。紫外線から樹脂を守 って7年保証するためにカーボンを添加した。実績は20年以上であった。ナイロン6はアミド基を有するため吸湿性で2-3%の水を含む。 成形直後の含水率は0.1%である。成形樹脂の塊り全てを水で飽和させるには時間がかかる。そこで水分を2.5%にする調湿処理法を編み出した。

紫外線反射材である酸化チタン粒子を化粧品に添加するとか繊維に付着される使い方があるが、結晶構造によっては光触媒作用があり、かえって皮膚や繊維やナイロン6の劣化が加速されるのでカーボンが優れている。

メーカーとしては東レ、日レ、宇部興産の3社で当時の生産量の3割に相当する需要が見込めた。この新幹線方式は在来線にも波及したが、開発した有機材料の寿命が想定以上に長く、期待したほどの需要は得られなかった。

Rev. January 5, 2010


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