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シリアル番号 表題 日付

1009

限界耐力計算

2005/12/15

姉歯建築士は2005/12/14の国会喚問で初期のころはSS1というソフトに建物の荷重を半分として入力していたが、2000年6月の法改正にともなって改訂されたソフトSS2では外力を入力できるようになったので地震による外力を 必要量の0.5-0.4として入力したと証言した。結果として建物の床面積あたりの鉄筋重量が通常117kg程度のところ81-82kgとなっていた。

この大臣認定プログラムはユニオンシステム株式会社が開発、市販しているWindowsで稼動するSuper Build/SS2である。これは 2000年6月の法改正で導入された限界耐力計算法は建物を等価1質点モデルに置き換え、応答スペクトル法の考え方に基づいて、建物の周期から建物に生じる地震力を求める方法である。

応答スペクトル法とはある想定された地震動に対して、減衰定数を一定として、周期の異なる建物に対して動的解析を行い、それらの最大応答値と周期の関係をグラフ化したものである。応答スペクトル法ではこの応答スペクトルを用い、動的解析を行わずに建物の周期が判れば最大応答値を予測することが可能となる。建築基準法施行令第82条の6では、減衰定数5%における周期-応答最大加速度の関係を表した応答スペクトルを使うことになっている。
<損傷限界耐力>
建物がおよそ50年に1回程度発生する地震、すなわち存在中に遭遇する可能性の高いレベルの地震を想定している。損傷限界耐力時の地震力に対して部材が許容応力度以下になるように設計する。
<安全限界耐力>
およそ500年に1回程度の地震、すなわち建物存在期間中に遭遇する可能性が低く極めて稀に生じる地震を想定。安全限界耐力時の地震力が保有水平耐力以下であり、かつ層崩壊を生じないよう設計することが要求されている。

このように本法は想定されたレベルの地震動での建物の変形、応力状況を評価できる点において、従来の許容応力度法等に比較すると精度が高い設計法である。実際に限界耐力計算を行うためには、静的増分解析システムが必要になる。それは損傷限界耐力時・安全限界耐力時ともに、静的増分解析から建物の層せん断力(Q)-層間変位(δ)を求め、等価1質点モデルの代表せん断力-代表変位から損傷限界耐力時及び安全限界耐力時の周期を求めて、その周期から建物に作用する地震力と変位を求めるためである。代表せん断力-代表変位が求まると、施行令、告示に提示された式を用いて限界耐力計算を進めることができる。

<表層地盤における加速度増幅率Gs>
国土交通省 国土技術政策総合研究所建築研究部がGsを計算する簡易計算プログラムを無償配布している。その解説書によれば解放工学的基盤で規定された加速度応答スペクトルから表層地盤の増幅特性、建築物と表層地盤の相互作用を考慮して求めた建築物の基礎底面における加速度応答スペクトルより建築物の応答値を求めるようになっている。この中で、表層地盤の増幅特性については、平成12年建設省告示第1457号第7第一号において、表層地盤の1次、2次卓越周期と増幅率で評価するように規定されている。表層地盤の増幅特性は、土の剛性と減衰定数が地震時に生じるひずみに依存する、いわゆる非線形性の影響によって変化する。この非線形性を考慮するために、増幅率の算定において収斂計算が必要となる。地震時における表層地盤の各層のせん断ひずみに応じて土質ごとに示されるせん断剛性、減衰定数は、告示の値(平12建告第1457号の別表1,2)を使用している。標準貫入試験結果からせん断波速度を求める方法については、「改正建築基準法の構造関係規定の技術的背景」3)を参照すること。出力は表層地盤の一次卓越周期(T1)、等価減衰定数(hse)、波動インピーダンス比(α)、表層地盤の一次・二次卓越周期に対する加速度の増幅率(Gs1、Gs2)、および周期毎の表層地盤の加速度の増幅率、地表面加速度応答値、標準加速度応答値のスペクトル値である。Super Build/SS2はこの建設省のプログラムと等価のプログラムを別途用意している。

<限界耐力計算のメリットとデメリット>
この限界耐力計算法は地盤と建物との相互作用を考慮するため、あまり悪くない地盤地質であれば、高層のマンション等での地震動が、在来耐震構造計算法に比べて小さめに建物に作用するという値が出る。又、SRC造でなければならなかった高層マンションが、この計算法の採用でRC造で建てられるようにもなっている。結果的に建設コストが軽減され、メリットの大きい計算方法と言える。長い間、在来耐震構造計算法という丈夫に力ずくで建築物を支える考え方できた。限界耐力計算は在来耐震構造計算法よりも、比較にならないほどに合理的で上等な計算法が限界耐力計算法だ。しかし、限界耐力計算法は構造設計者の能力によって、耐震性能が大きく支配される設計方法である。事は人命財産に関わることであり、発注者はこれらのことを認識し、信ずるに足る構造設計者を見抜いて、自己の責任で直接選定すべき時代になってきたのではないかと思われる。素人は信頼すべき建設業者の手がけた物件以外に手を出すリスクを考えなくてはいけない。


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