メモ

シリアル番号 表題 日付

052

巨匠

91/9/19

●木下順二作劇、ジスワフ・スコヴロンスキ作のテレビ・ドラマによる

●巨匠の主人公の選択は自己のアイデエンティティーの確立である。望んでいた俳優として銃殺されるためゲシュタポに名乗り出るか、簿記係として希望をすて敗残の余生を送るか。主人公はまったく自由に選ぶことができた。そして選ぶことによって巨匠となったのである。

●一人の若い王女が、王クレオンの命令に背いて兄の屍体を埋める決断をしたとき、アンティゴーネになったように。

●一人のいなか娘が、救国の「お告げ」に従う決意をしたとき、ジャンヌ・ダルクになったように。

●しかし一見、主人公はまったく自由に選ぶことができたようにみえても、じつは他者、すなわち俳優志願の青年に視線の下でなされた決断と選択であったわけである。すなわち、自己のアイデエンティティーの確立とは他者の視線を通しての客観化以外のなにものでもない。他者とは、社会であり、視線とはその社会のその時代の価値の表現である。または文化といってもよい。
ー加藤周一の夕陽妄語より


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