読書録

シリアル番号 970

書名

「百人斬り競争」と南京事件 史実の解明から歴史対話へ

著者

笠原十九司(とくし)

出版社

大月書店

ジャンル

歴史

発行日

2008/6/20第1刷

購入日

2008/8/12

評価

昨日の朝日新聞の書評を見て、たまたま今日東京に出たとき丸善本店にて購入してあらかた読んだ。

1972年に本多勝一が「中国の旅」で「百人斬り競争」を紹介したことから南京虐殺が史実か否かを巡って、南京事件否定派が最高裁で敗退した論争を 蒸し返そうと向井敏明、野田少尉の遺族が2003年、冤罪であるとして名誉棄損裁判を起こしたため「百人斬り競争」が白日の下にさらされた。

南京事件は中国側のでっち上げだという報道を聞かされて育ったものだが、どうもおかしい。あまつさえ鹿児島出身の薩摩隼人と山口県出身の将校2名が「百人 斬り競争」をしたななどということはまったく知らなかった。これは2006/12最高裁で事実であったと認められているにもかかわらずである。報道が一切 され ていない。

なぜか?当時こうした惨殺を、将兵の家族を含む地域社会がメディアを含め賞賛し、彼らを英雄扱いしていたという事実があるからであろうか。どうもそうでも ないらしい。すぐ訴訟に訴える反動勢力がいるためめんどうなことにまきこまれたくないためかもしれないし、大方の読者は不快に思うだけだから、メディアと して得にならないためかもしれない。

NHKスペシャル「そして日本は焦土になった」とか「硫黄島」を米軍内部の意思決定プロセスの面から克明に追った傑作作品を作成したNHKの有能なディレ クターN氏の祖父は日中戦争当時、捕虜をあやめたという過去を家族の誰にも話さなかったのだが、彼が九州に遊びに行ったとき、孫たる彼にだけに告白したこ とがあり、この経験が彼が長じて名ディレクターになった原体験だったのはないかということを彼の母親 であるN.から最近聞いた。

まだまだ歴史になっていない部分があるのであろうか。 いつになったらNHKが本テーマを取り上げることができるのかはなはだ疑問と思う。敗訴した「百人斬り裁判」の原告側訴訟代理人であった稲田朋美衆議院議 員・弁護士は中国人李纓監督が作成したドキュメンタリー映画「靖国YASUKUNI」に文化庁が助成金をだしたことを問題にしている当人である。NHKが 取り上げたら、会長の首は飛ぶと思ってまちがいない。

いやな時代がきつつあるのであろうか?

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Rev. August 10, 2016


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