読書録

シリアル番号 909

書名

朝のガスパール

著者

筒井康隆

出版社

新潮社

ジャンル

小説

発行日

1995/8/1

購入日

2007/10/28

評価

新潮文庫

息子の蔵書か?

1991年に朝日新聞朝刊に連載したSF小説である。朝日ネットに開設したパソコン通信「電脳筒井線」に参加した読者から毎日300通近いメールをもらいながら書き上げたものという。

読み始めるとなるほどSF小説である。そのうちに作家と編集者の人間が登場して読者からの反響を話し合う。どうもSF小説が不人気だと分かると、SFの世界は実は、会社役員クラスに人気のあるコンピュータゲームの世界であったと場面は急展開する。会社重役の奥様連中が入り浸る、パーティーのただれた世界を描写して一般読者にサービスをする。パーティーシーンに飽きがくるころ、場面は再度急展開して作家と編集者が登場し、熱烈なSFファンからブーイングが来ていると紹介する。読者が実名で小説に登場できると分かると、投書数が急増したこともバラされる。こうして物語は展開してゆくようだ。どう落とし前をつけるのだろうか?

本小説とは関係ないが、筒井康隆はマスコミの自主規制に反発して一時筆を折ったこともある硬骨漢と記憶している。

「朝のガスパール」というタイトルの意味を中間地点で朝だちのことだといい、最後に悪魔だというが、おふざけ。ガスパールは人の名前。モーリス・ラヴェルが1908年に作曲した超絶技巧のピアノ作品『夜のガスパール』(Gaspard de la nuit)をもじったものだろう。リサとガスパールという絵本もある。

実在の作家筒井康隆 とか読者のレベル、筒井をモデルとした虚構の作家・編集者・投書を書く読者のレベル、小説の登場人物のレベル、登場人物が愉しむロールプレーイング・レベルに登場する虚構の人物レベルなど4階層が個別に描かれるが、そのうちにSF的に 虚構の壁を越えて同じレベルに登場させたりしてかなり輻輳してくる。こういう自己言及的小説をメタ・フィクション(メタ物語)というのだそうだ。

精神分析的構図ではスーパー・エゴ(超自我)、意識、前意識(努力すれば思い出す記憶)、無意識、イド(感情、欲求、衝動をそのまま自我に伝える機能)のアナロジーにちかいと著者はいうが。


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