読書録

シリアル番号 838

書名

正義と嫉妬の経済学

著者

竹内靖雄

出版社

講談社

ジャンル

経済学

発行日

1992/9/3第1刷

購入日

2007/1/12

評価

S.K.にもらう

日本社会を観察して、その成功や愚行の秘密を分析しようとする経済学であり、倫理学であるとのうたい文句通りに面白い。とにかく辛らつな警句のオンパレードだ。たとえば。

●経済学と倫理学は稀少なるものの配分をめぐる問題を扱うという共通点から近縁関係にある。

●経済学は問題を損得勘定のレベルであつかう。倫理学は問題を感情のレベルで解こうとする。

●戦後の日本では教育のディマンドサイドの競争だけを極端に激化させた。これからはサプライサイドの競争を通じて教育の質を高めることが必要。

●交換は感情をともなわない無色透明の関係で、ここには経済問題しかないが、一方的にサービスや金品を移転する贈与の関係は経済の領域に留まるわけにはいかず、「見返り」の期待 、「愛と憎悪」の領域、あるいは「支配と屈従」の領域に移り政治学の問題となる。

●アメリカはクラウゼヴィッツが言う戦争という手段で政治をする国だが日本はせいぜい経済的利益の贈与、またはお賽銭型贈与で政治を行う国だ。

●政治とは言葉で相手を説得し、脅し、あるいは宥めすかして自分の意思を相手に押し付けることが基本である。しかし日本の政治には言葉がないのでお賽銭型贈与で政治をおこなうしかなくなる。このような金銭第一主義はヤクザの発想と瓜り二つなのである。

●日本の政治に言葉がないのは、相手に押し付けるべき自分の意志や思想や価値観を持っていないためである。

●男女関係は政治の原型で、言葉を使う能力が貧困な男は自己表現も説得も交渉も駆け引きも不得意なためミツグ君にならざるをえないのである。ミツグ君も日本国家もヤクザと同じ次元で生きている。

●日本の場合、儒教の最大の影響は上から与えられた秩序を率直に受容する「統治されやすい民」を生み出した点にみられる。

●暴力団なり私的軍団なりが権力を独占したのち文明化して国家に化けた。

●給与から所得税を源泉徴収されているサラリーマンは実は税金を納めていない階層である。企業がその従業員の雇用と賃金支払いに見合って課せられる雇用税とでもいうべきものではないか。

●民主主義とは何よりも「集票競争による権力獲得ゲーム」である。

●日本人は世襲がすきらしい。世襲を続ければ、社会の流動性は極端に制限されて、その結果出現したのが「士農工商」社会であった。人間が生まれた時から一定の仕切りの中に入ったまま動けないような社会は、閉鎖社会、別名カースト型社会である。


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