読書録

シリアル番号 803

書名

日本海海戦 アルゼンンチン観戦武官の記録

著者

マヌエル・ドメック・ガルシア

出版社

社団法人 日本アルゼンチン協会

ジャンル

歴史

発行日

1998/10/20第1版
2001/9/20第2版

購入日

2006/10/30

評価

巻頭に日本アルゼンチン協会専務理事の著者紹介がある。帝政ロシアが極東とインドに向かって南下しようとしているとき、これを阻止しようと日本は同じ危機 感を有する英国の協力を得てこれを阻止しようとしていた。たまたまチリと国境紛争問題を抱えていたアルゼンチンはイタリアのジェノアで二隻の装甲巡洋艦を 起工した。しかし英国の斡旋で合意が得られ二隻の軍艦は不要となった。英国の斡旋でこの二艦を日本が購入することになった。英国船員により日本に回航され た。この二隻を撃沈せんと先をゆくロシア戦艦オスラービア、二隻を守ろうと割って入る英国軍艦キング・アルフレッドが一列縦隊で地中海をポート サイドまで航海したという。これが後の日進と春日である。日露戦争がはじまるやアルゼンチン海軍大佐の著者は観戦武官として日進に乗船して日本海海戦をつ ぶさに観察し、まとめたのが本著であると。

著者ははじめになぜロシアが負け、日本が勝ったかその理由を述べている。その教訓とは

国家の平穏と安寧は、国家の利益を保護する手段を知るということに、その根本が置かれるべきである。その利益が大きければ大きいほど、採るべき警戒手段も 強固にすべきである。単なる安寧がもたらす豊かさと無関心は、幻惑を生み出し、厳しい現実の中で悲しい事例をもたらすことがある。

国家は、常に戦いの準備をすべきである。これが、とりもなおざす戦いを避ける最もよい方法であり、また、情勢を冷静に判断するための最も良い方法である。そして、最終的には、寛大な全能の神が与えてくれた、宝と言うべき国民を守る最もよい方法と言える 。


である。地球政府が無い以上これは当然なロジックである。特に日本には「単なる安寧がもたらす豊かさと無関心は、幻惑を生み出し、厳しい現実の中で悲しい事例をもたらすことがある」という言葉が突き刺さる。

時あたかも2006/10/30の朝日新聞の風考計で作家ポール・ニザンの孫で「帝国以後」の著者フランスの人類・歴史学者のエマニュエル・トッド氏が

「 核兵器は偏在こそは怖い。広島・長崎の悲劇は米国だけが核を持っていたからで、米ソ冷戦期には使われなかった。インドとパキスタンは双方が核を持った時に 和平のテーブルについた。中東が不安定なのはイスラエルだけに核があるからで、東アジアも中国だけでは安定しない。日本も持てばいい。イランも日本も脅威 に見舞われている地域の大国であり、核武装していない点でも同じだ。一定の条件下で日本やイランが核を持てば世界はより安定する。

第二次大戦の記憶と共に何千年も生きてはいけない。欧州でもユダヤ人虐殺の贖罪意識が大きすぎるためパレスチナ民族の窮状を放置しがち、日本も戦争 への贖罪意識が強く、技術・経済的にもリーダー国なのに世界に責任を果たせないでいる。過去を引き合いに出しての「道徳的立場」は真に道徳的とはいいがた い。

小泉政権で印象深かったのは『気晴らし・面白半分のナショナリズム』である。靖国参拝や、どう見ても二次的な問題である北方四島や竹島へのこだわりです。実は米国に完全に服従していることを隠す 『にせナショナリズム』または『偽りのナショナリズム』ですよ」

ウーン図星ではないか。


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