読書録

シリアル番号 640

書名

生態系が語る日本再生

著者

岡本久人(ひさと)

出版社

日本経営協会総合研究所

ジャンル

経営学

発行日

1997/12/10初版

購入日

2004/06/24

評価

鎌倉図書館蔵

著者が長期滞在したローマにはホシムクドリが多い。巨大な集団をつくる。この群れを観察しているとなぜか日本社会を連想する。弱い個体のあつまりで個体は中心指向をもつ密集型社会を形成する。

反対の性向をもつ鳥にカモメがいる。強い個体のあつまりでただ集まっているだけの離散型社会を形成する。

ワシなどの外乱が入るとカモメの個体はそれぞれ独自の判断で回避行動にはいる。しかしホシムクドリの群れの中の個体は群れの外をみておらず、周辺の個体をみているだけなので、全体が見えず、パニックに陥り、右往左往したのち、塊となってとある方向にダッシュし教会の鐘楼などに激突したりする。

ホシムクドリ型社会は教会の鐘楼に衝突した仲間を助けることはしない。なぜなら一定の犠牲を前提とする社会だからである。群れることで自分にふりかかる危険の犠牲になる確立をさげようという目的だからである。

ホシムクドリ型密集群は性格的に個々の個体が保身のために集合したもので、その中心部も当然保守的で、群全体を率いる強烈なリーダーシップを発揮しない。むしろ均一社会故、リーダーシップの所在さえ明確ではない。明確なリーダーシップのない均一社会では、責任も均一に分散されていると考えられ、過去への責任も曖昧なら、未来に対する責任も曖昧のままである。他とは異なる感受性や考え方は生理的に拒絶され、結果、環境変化にたいする適応性を著しくそこなうことになる。

貧困と臆病さがホシムクドリ型密集群構成の原因である。

この集団の属していると自分の周囲は皆ムクドリであってほしいと思うようになる。そして中心にいる個体ほど周りの鳥は自分よりすこし弱いことを望み、危機に面したときはかれらが真っ先に犠牲になってほしいと思うようになる。

役人の愚民主義、搾民主義、棄民主義の三民主義はまさにホシムクドリ型密集群の中心のムクドリが考えそうなことだと気がつく。

製造業がなだれをうって中国に進出するなど、塊となってとある方向にダッシュし教会の鐘楼などに激突する衝動と同じ現象で日本の将来はここにはない。

日本の将来は地球由来資源の枯渇を視野にいれ、そこで生き残るためにワシやタカのように、いや、せめてカモメのように一人一人が孤高を保ちながら本物の人生を生きる社会にすることだろう。

谷沢永一のいうように「法律も制度も公約も、突発の異変を切り抜けるよすがとはならない。それは小春日和の転寝(うたたね)の夢である」


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