読書録

シリアル番号 578

書名

ダイオキシン 神話の終焉

著者

渡辺正 林俊郎

出版社

日本評論社

ジャンル

環境

発行日

2003/1/30第1刷

購入日

2003/06/21

評価

山形浩生が朝日で紹介していたので、気になり、鎌倉図書館で借りて読む。

水俣病などでは行政の対処が後手に回ったのにダイオキシン騒動では実害もでていないのになぜ焼却炉を40兆円もかけて新規に立て替えさせる法律が一気に出来、そして最新式の焼却炉はダイオキシンを必ずしも減少させることもできず、それを測定する義務も免除されているのか?そしてただ地方自治体の不良債権だけが増加する結果になっているのかとい疑問を調査した報告書である。

ダイオキシン騒動に火付した当時の情報 vs 今の情報

(1)ダイオキシン猛毒説 vs ダイオキシン類は殆ど無毒。猛毒といわれるTCDDは特にモルモットが持つタンパク質に対し特異的に強く結合する。この現象を強調したもので他の哺乳類にはそれほどの毒性をもたない。

(2)ダイオキシンは天然には存在しない毒物 vs 山火事でも生成される自然物

(3)ダイオキシンはポリ塩化ビニルを燃すと生成する vs 食塩など塩素があるとき炭化水素を燃せば必ず生成しポリ塩化ビニルで特に増えることはない。

(4)ゴミ焼却炉がダイオキシン生成の主原因 vs 1970年代まで使われた水田除草剤ペンタクロロフェノール、クロロニトロフェノンの不純物が日本のダイオキシンの主要供給源で今日本近海魚に蓄積されている。

(5)ゴミ焼却炉のダイオキシンによる新生児死亡率急増説 vs サンプル数が小さい三芳町のある時期の死亡率が平均より多かった時期のデータのみを表示したもので統計学的に意味がないデータ

(6)ダイオキシン胎内曝露→アトピー児誕生説 宮田、長山両氏が厚生省のデータを読み間違えた。

(7)カネミ油症→死亡率・発ガン率増加説 vs 検査時にC型肝炎ウィルスに感染させられた。それと患者を苦しめたのはPCBより人間である。すなわち医師団や油症研究班との人間関係が死亡率を上げた。

(8)ダイオキシン曝露→ヒトのメス化 vs 出生性比が1970年ころから下降気味になったことを指摘しただけで死産性比は1970年から逆転している。両方を加えた自然な出生性比に変化はない。

専門外のことに関しても憶測で発言した結果、曲学阿世のやからとなった下記学者が上記のあやまてる情報の発信犯人として弾劾されている。

(1)(6)(7)摂南大学教授、宮田秀明

(1)(6)九州大学教授、長山淳哉

(1)(2)元愛媛大学教授、高知大学学長、立川涼

(8)横浜市立大学教授、井口泰泉

(5)埼玉NGOの調査担当、棚橋道郎(物理炭査のエンジニア)
大学に環境学部が雨後のタケノコのように増えたのも上記曲学阿世の徒とおなじ旧文部省が築き上げたものを考えさせない一律の理科教育に根を持つと思わざるを得ないと結んでいる。

因みに著者
渡辺生(ただし)は東京大学工学部工業化学科卆、生産技術研究所教授
林俊郎は東京農大卒、目白大学人間社会学教授

あやまてる情報の発信犯人とされた学者は功名心でつい勇み足をしたのかもしれないが、これを指弾する著者はその当時は不作為の罪を犯していたかもしれず、読み終わって後味の悪さはあった。

(3)の誤解はH. Mattila他、Chemoshere,25,1599,1992の研究データを国立環境研究所の安原昭夫氏が原料塩素量と生成ダイオキシン量に比例関係がると間違って解釈したことに端を発している。ゴミ中の塩素濃度が0.001%を越えるとダイオキシン生成量が頭打ちになる。アメリカ機械学会が169箇所の焼却炉で調査したデータでは、塩素濃度0.1%以上ではと塩素濃度とダイオキシン生成量には比例関係はなく一定である。東京都の生活ゴミのなかの塩素量は。

塩ビを含むプラスチック:2.9%
ゴム・皮革:2.5%
繊維:1.7%
紙:0.6%
木草:0.2%
台所クズ:0.2%

木草を燃しただけでダイオキシンはできるのであり、塩ビがゴミに入っても特にダイオキシンを増すという事実はないと著者は断定。塩ビはダイオキシンを増やさないが、しかし塩化水素ガスを発生させ大気汚染の原因となり、炉の損傷を生じるのでやはり燃さないほうが良いので分別回収は正しいとしている。ホスゲン、塩化メタンの生成については言及していないが分別回収でこの生成の可能性も減る。

まえじま氏に教えてもらったのだが、ダイオキシン生成の化学http://www.sopia.or.jp/kotoku/no34chlo.html#Findによれば「ダイオキシンの生成は、主に炭素が酸素および塩素とフライアッシュ中で反応する触媒反応であり、触媒の種類と量、温度、炭素の種類と量に強く影響され、ガス相の酸素濃度にもより少ないが影響される。灰分中の塩素量にはわずかに影響されるが、ガス相中の塩素/塩酸濃度や別のガス類(水分を除く)の濃度には、全く無関係である。このことは、なぜ塩ビを一緒に燃焼しても、別の物質を焼却炉(あるいは不慮の火災)で燃焼したときより、ダイオキシン生成と排出が少ないのかを説明している。なぜなら、塩ビに含まれる塩素分はほとんど塩酸として排出されるため、都市固体ゴミ焼却炉で認められる濃度のダイオキシン生成には、測定出来る程の影響を与えないからである。」



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