| シリアル番号 | 507 | 
| 書名 | 金融工学、こんなに面白い | 
| 著者 | 野口悠紀雄 | 
| 出版社 | 文芸春秋社 | 
| ジャンル | 金融工学 | 
| 発行日 | 2000/9/20第1刷 | 
| 購入日 | 2001/05/11 | 
| 評価 | 優 | 
東大工学部卒、大蔵省、エール大PhD、一ツ橋大、東大教授歴任の著者が分散投資によるリスクの分散、ブラック・ショールズの研究などを紹介した後、14世紀までは高い文明を持った中国を中心とする東洋がなぜ太平洋を渡ってアメリカ大陸を発見せず、西洋は大西洋を渡ってアメリカ大陸を発見したのかと自問し、西洋がリスクに挑戦するための社会的な仕組みと技術を発展させたのに、東洋はしなかったためという。例えば株式会社という有限責任の仕組み、ロイズの保険というリスク分散の仕組みである。
この他にも国家事業ではなく民間収益事業を国家が許容すること、分権的な意思決定が行なえる体制があること、組織間の人材流動性が高い社会構造であることなどが必須要件である。
明の鄭和が西アジアとアフリカに8,000トン級の船62隻に3万人の船員と将兵を乗せた大船団を7次に渡り出したのに、中国が官僚国家だったがためにリスクのない西への航路をとることしか考えなかったのである。マゼランの船団は100トン級5隻、総勢265名であった。今様にいえばベンチャーであったわけである。
「リスクに挑戦するための社会的な仕組みと技術を持たない国は、いかに高度な自然科学と工学を発展させても、やがて衰退することは歴史的な事実である」と野口悠紀雄は言う。そして「中国と同じくソ連という国もこの歴史的な証拠である。そして日本がいまの経済構造を継続するなら、16世紀の中国、20世紀の社会主義国と同じ陥穽に落ち込む危険は否定できない。失われた10年間はこれが決して杞憂でないことを示している」と予告するのである。