読書録

シリアル番号 446

書名

なぜ日本は没落するか

著者

森嶋通夫

出版社

岩波書店

ジャンル

社会学

発行日

1999/3/5 第1刷
1999/10/7第7刷

購入日

2000/06/26

評価

日本の教育制度が日本をだめにするという説。自著 Why Has Japan 'Succeeded'?, 1982, Cambridge University Pressのフォローアップ論文 Why Do I Expect Japan to Collapse?を展開した本。

西尾幹二、藤原信勝、小林よしのりを中心とする「新しい歴史を作る会」とその支持者、林健太郎、阿川弘之、市村真一が指弾する自虐史観、東京裁判史観は東条をはじめとして戦勝国に戦犯とされた人物は戦勝国の犠牲者だという。しかし実態は違うと厳しく糾弾する。いわく:

東条は確かにヒトラーやムソリーニと比べれば自ら党を動かして独裁的に振舞った西洋型の独裁者とは異なる。しかし出世上手の官僚型の「事務独裁者」であり、独裁者であることに変りはない。日本は競争的独裁制の国で、いくつかの集団が国内で互いに暗闘を繰り返し、その一つが勝利を収めて独裁を勝ち取る、競争的独裁制の国である。東条は勝った独裁グループが選んだ「独裁執行官僚」ないし「事務軍人」であったのだ。「生きて虜囚の辱めをうけず・・・」と書いた「戦陣訓」を陸軍招聘の全員に配布したのは陸軍大臣時代の東条であった。しかし連合軍が逮捕に来たときに自殺に失敗して自らは生きて虜囚の辱めをうけた人物である。彼は家族や秘書官に細かい配慮をする人ではあった。しかし彼には人を得心させるような戦争哲学や戦争倫理、国際関係を読む能力は皆無であった。彼が唯一持っていた「八紘一宇」は要するに天皇が全世界を支配すべきだということに尽きる。

西欧民主主義でも社会契約説に従い、限定された独裁権(elected dictatorship)を指導層に与えるというわけです。しかし日本では聖徳太子が十七条の憲法で、集団が和を保つには独裁制が排除され、集団の長は和を重んじなければならないと した伝統に従うことが美徳とされている。東条が選ばれたのも和を保つことに才があったからである。しかしトップは集団内では絶対的権限を持ち、彼と異なる意見を持つものは探し出されて、和を乱すものとして排除されるのだ。和の精神は、集団の保存装置として異分子の摘発、粛清、処分を行う機構の存在を正当化する。と同時にトップは政治的イノベーションを提案する「切れ者」を嫌う。この和こそ日本の進歩や発展の障害となるのである。日本は和の気風を一掃することに成功しなければ、政界に新風は吹かず、新風が吹かなければ、社会も経済も動かない。

官僚的支配に対立するものは、カリスマ的支配である。すぐれた企画力こそ、カリスマの源泉である。西欧の民主主義政党政治は党首はカリスマがなければ勤まらない。カリスマが必要とされなかった東条、山本五十六、将軍、提督には戦争計画はまったくなかった。かれらは合戦(バトル)を論じることはできても、戦争(ウォー)を論じる能力はなかったのである。


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