読書録

シリアル番号 1343

書名

中国が世界をリードするとき  西洋世界の終焉と新たなグローバル秩序の始まり

著者

マーティン・ジェイクス

出版社

NTT 出版

ジャンル

歴史

発行日

2017/7/18

購入日

2018/06/05

評価



西洋の産業革命以降の成功、アジアの植民地化と中国の最近の勃興を歴史・文明・社会論から解き起こし、未来を予測しようという膨大で意欲的な著作である。まだ読破中。



読みながら自分の頭で予測したストーリーは

製造業は製品デザインと製造工程が決まっていれば、あとはだれでも工場に投資して人を雇って毎日おなじものを作らせるということでうまくゆく。そういう意 味で日本と中国の成功原因は似ている。そこに共通しているのはトップダウンの整然たるピラミッド構造。これは権威主義と呼ぼう。日本はいまだにここに留 まっている。中国もそう。

米国は相手が日本であろうが中国であろうがアップル、グーグル、クアルコム社、NVIDIAのように傑出した理系が思うように設計をして台湾/中国企業に 作らせる。スマホのCDMA通信チップとARM社のCPUと合体したチップはクアルコム社が設計し、台湾で製造されたものが世界を制覇している。人工知能 に使うGPUはアメリカに留学してチップ回路設計をしていた台湾人のジェン・スン・フアンがNVIDIAを設立し、台湾のファウンドリーに造らせている。 彼は全米60位の大金持ち。この 構想とか設計ができるのは英国の産業革命に始まり、米国に引き継がれた、個性豊かな個人がするイノベーション。これを個人主義社会と言う。

今、米国と中国(昔日本)は車の両輪。どちらも相手が必用。

日本は文系天下で理系は過去20年間、阻害されたまま製品設計や工程設計の経験をつんでないから魅力ある商品を開発できず、もう終わっている。社会が権威主義的だから再起不能。日 米でPC製造している会社はゼロ、でも設計している会社はデル、ヒューレットパッカーなどが生き残っている。PCやスマホの重要な部品であるフラッシメモ リーを発 明した東芝は社運をかけた原発工事の赤字を埋めるために肝心の中核的技術であり、ドル箱のその部分を売却。スマホの設計はアップルとグーグルが健在。スマホのCPUの 設計会社のARM社の株を孫氏がもっているが設計ノウハウに関わっているわけではなく、あくまで文系的マネーゲームに過ぎない。

このように弱電はもう壊滅状態。トヨタだけがハイブリッド車でまだ頑張っている。しかし構造が単純で大量生産に向く中国製のEV車に駆逐されて日本で設計されるものはゼロ になるのではと危惧している。日本に残るのは中国人観光客向け安宿のベッドメーキング位。

日本は民主主義国ではない。日本は実は中国は権威主義的という同質の文化だから、おなじ土俵では中国に負ける。中国の文化はおれたちとは違うと考えたいだろうが、残念な がら同じ。日本が西洋と付き合い始めて150年、中国とは2,000年のお付き合い。違いは中国が日本の10倍も大きい。結果、人材が豊富。政権には人材 がいて侮りがたい。共産ロシアは崩壊したが共産中国は大躍進したことに秘密が隠されている。今後米国でデザインに係わった中国系人材が国に帰って製品デザインと工程設計するようになれば、米国が製造業の空洞化でズッコケても 中国は自律的に自己完結的に成長を続け、世界の中心になるかもしれないという転換点に来ている。

日本政府は臓器再生も可能とされるiPS細胞に熱狂して研究費を投入しているがこれは国民の不安を慰撫するためのアドバルーンにすぎない。皮膚などの再生は可能だろうが、ほんとに肺臓が再生できるの?こういう気管 と血管が複雑につながって臓器は体の他の部分とTWIZY情報物質をやりとりして完成してゆくのだから体外培養でそんなに簡単にできるとは思えない。もしできたとし てもその医療費を支払うことができる人は金持ちだけだろうから、あまりいい話ではない。むしろ健康保険システムを破綻させるのではないか?

こういう研究に日本政府が夢中になること自体、サイエンスが分かっていない証拠。ノーベル賞に舞いあがっただけ。すなわち文系支配の典型的な症候群。理系もバカ な文系の「しもべ」でいるかぎりだめ。米国なら出来る理系には先に成功して大金持ちになった理系資本がつくが、日本では資本は全ておバカな文系が権力をに ぎっているので、今後ますます日本は沈没する。国力は科学技術力そのものなんだが。もし中国が日本の失敗をみて軌道修正すれば怖い国になる。

文系批判すると「理系のやっかみ」と解釈してバカにするのが日本の文系文化。だからみなバカにされるのがいやで心の中でそう思っていても口には出さない。「バ カな文系を、おまえはバカだ」と罵しったところでバカは自己治癒しないから無駄な行為となり損と考えているのかもしれない。これを損と考えるのは利口者と して、ならばどうして匿名投票の選挙でバカな文系候補に投票するのか?投票者もバカだからでしょう。一億総バカ。救いがない。

高橋洋一氏の「「文系バカ」が、日本をダメにする ? なれど“数学バカ”が国難を救うか」に『鳩山、菅の両元首相が理系だから、説得力がない』と、この二人のせいで理系総理は全く駄目だとレッテルを貼ら れてしまった感は否めないと言っているようだが、私は鳩山、菅の両元首相は他の総理と差はない。やはり理系を総理にはしたくないという世間の暗黙のコンセ ンサスがあったと思う。既得権は守りたい。そういう意味で高橋洋一氏も甘い。まだ本質がお分かりになっていないようだ。

彼ら文系は考えることをしない。未来は過去の線形延長だと思い込んでいる。理系は少ない原理からロジックを組み立ててモデルを作製して未来を予測する。非 線形の結果にも驚かない。ところが彼らは身分差で参画させてもらえない。たまに参画できても某文部省の局長のように汚職だとして逮捕される。

結果が現在の日本。イノベーションしろと掛け声は聞こえるが、それを採用する判断は文系には無理。なぜなら理解できないから。高度プロフェッショナル制度 を造ったところで、その上に文系管理職がいるかぎり、天井があってすべての努力は無駄になるし、上の文系管理職が理解できる範囲での仕事となって世の中をひっくり返すもの は生まれない。



と散々、愚痴りながらついに読破。

近代化とは伝統に縛られた現在とは相反するものとして未来を選び取ることである。そういう意味で150年前の日本はアジアで一歩はやく近代化に成功した。 しかしおなじことはアジアも出来たのである。中国が近代化できたのは、日本の「和魂洋才」とおなじく「中体西用論」という「中国の本質」と「西洋の方法」 をめぐる議論の後である。中国共産党もイデオロギーからテクノクラートに移行した。

日本にとって不幸なことに勃興する中国に危機感を募らせ、政権が小泉時代から、安倍時代にかけて右傾化して中国敵視政策に走ったことである。一時、野党の 鳩山政権で揺り戻すかと思われたが、結果として中国の反対で国連安全保障理事会の常任理事国にはなれなかった。その後の中国の躍進で和解の望みもついえ、尖閣諸島が領 土問題としてクローズアップされたままである。ドイツが隣国と和解してEUを成立させたのと好対照である。

この本はトランプ時代の直前で終わっているが、中国と世界の関係は次の8つにまとめられるとしている。トランプになってもこの結論は変わらない。

1.中国は西欧的なウェストファリア体制の国民国家でななく、文明国家である。特に優越意識、国家に寄せる信頼、統一の使命感は中華文明の産物で ある。過去150年間、国民国家のふりをしたのは西洋の植民地主義に強制された末の妥協で、そのタガが外れれば本質的には先祖がえりするだろう。

2.中国の対東アジア関係は過去2,000年間の朝貢時代の過去がよみがえるだろう。朝貢体制とは中国と周辺の圧倒的格差により生じる関係である。すなわ ち日本がかって白村江で悟った関係である。優越階層意識と巨大な人口と経済力がそなわればおのずからそうなる。ヨーロッパ列強は東アジアを去って既に70 年、米国は衰退期に入り、日本は中国の陰に覆われつつある。朝貢体制を決して受け入れないのはヨーロッパと北米だけだろう。東ヨーロッパ、南米、南アジア (除インド)、アフリカは容易に取り込まれる。その他のオーストラリア、ニュージーランドは飲みこまれるかもしれない。

3.中国人は長期間に渡り、同じところに棲み混血した結果、90%の中国人は人類を階層的にみて自分は漢民族という特別な民族・人種意識であると考えている。確かに漢字という文字と 言葉を共有している最大の実態ある民族なのだ。もし民主主義政権ができれば、台湾統一の勢いは増すであろう。ヨーロッパでは海外移民や植民は国を挙げての 文明化事業だが、中国では中国を離れるものは都落ち、文明の道を踏み外す人とみなされている。

4.中国の国家運営は人口と国土面積の面で世界最大である。文明国家は「一文明多制度」が可能でケ小平の改革開放政策や香港返還はこのやり方でなされた。 中国が民主的になることの保証はない。インドは民主的になったが、EUの構造も運営も民主的ではないのをみれば明らかである。

5.中華王朝はヨーロッパのように教会のような政治的に競合する組織や商人層と言う利益団体とのあいだで権力分担をする必要が無かった。中国には西洋社会 でみられた組織的宗教は存在せず商人は組織化による利益追求よりも個人的な働きかけによって便宜を受けようとした。結果、国家のみが最高権力として誰から の反対も受けずに社会を支配した。儒教的精神は国家(皇帝と官僚)に道徳律に従うように説いたが、民衆に対する責任を負う(アカウンタビリティー)ようには求めなかった。この例外 は社会が深刻な不安や幻滅に陥ったときは天命が革まり、皇帝から民衆に正当性が移ると考えられた。こうしても民衆が主権を持つことはありえなかった。変わ るのは国家主権のみで国家が民衆に対する責任を問われることはなかった。現在の共産党政権も同じ。

6.台湾や韓国などの東アジアの農村社会から都市社会への移行は30年かかったが、中国のそれは人口が大きいため、2025年になっても1/3に留まる。これは中国が過去からのフィードバックを受けることになる原因だ。

7.1949年以降中国は共産党支配体制下にある。1978年は中国で農民層が支持母体だった共産党指導の下に史上もっとも目覚ましい経済発展が始まった 年。1989年はベルリンの壁が崩壊し、天安門事件が勃発し、都市住民が支持するヨーロッパ共産主義とソ連が崩壊した年。この謎を解く鍵は儒教的理念への 再接続だろう。

8.中国は今後数十年にわたり先進国と発展途上国の性格を併せ持つことになる。日本と列強がもたらした「屈辱の世紀」をもった敗者の側から登場した最初の強国となる。そういう意味で1945−60年の植民地支配の終焉こそ20世紀の重大事件だったのだろう。

中国が脅威だとされるが、この本を読むと日本がミニ中国だったんだなという感慨をもつ。ご本家が強くなればやることなすことすべて逆効果。日本人はつ いに西洋的な人権思想を持つことなく、中国的(儒教)な権威主義のはざまで沈没しつつあるのだろう。どっちつかずの宙ぶらりん。消えてゆく運命。よくト ランプは不安視されるが、それはかれがアメリカの支持者を守るためにあらゆる手を使うからに過ぎない。なにもしない政治家や官僚は捨てられて当然。

マーティン・ジェイクスは英国人という外部の人間だから、当事者ではない。でも冷静に見ていられる。

私のように反抗精神で生きてきたような人間にとっては、日本はやはり欧米流の価値観を貫いてほしい。ということは米国やヨーロッパ側について中国に抵抗するのが自らを救う道か?10年では収束しないが、方向は見えるのでは?


Rev. July 15, 2018


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