読書録

シリアル番号 1176

書名

古代天皇家と日本正史 万世一系の超秘密

著者

中丸薫

出版社

徳間書店

ジャンル

歴史

発行日

2004/9/30第1刷

購入日

徳間書店

評価



鎌倉図書館蔵

古田史観は記紀と隋・唐の正史との文献比較だけで古墳などはあまり重視していない。

そこで今日近くの図書館で、明治天皇の孫と自称するコロンビア大学博士号をもつ国際ジャーナリスト中丸薫著「古代天皇家と日本正史 万世一系の超秘密」徳 間書店をかりてきて、ぱらぱらとページをめくっているうちに日本は単一民族ではないとか、英語と同じく複数の言語が混合すると文法と発音が単純化する、と か和食の和は大和の和ではなく倭食が語源だとか、信濃の国は中国の吉林省にあった高句麗(吉林省あたりの扶余族)の人々が吉林省の高句麗の滅亡にともなって積石塚をもって信濃に移住したも のであるとの言説に引き込まれ数時間で読破してしまった。

友人の山口氏は松代の大室古墳群は5 世紀から8世紀の築造、とありますから、高句麗人の渡来は、新羅による「高句麗」滅亡の紀元676年ころであり「古朝鮮」(紀元0年前後の三韓と対立して いた頃の高句麗とは違うのではないでしょうか? と書いてきた。どちらが正しいかは吉林省にまだ積石古墳があるかだが。

めくるめく説で頭がくらくらしたが世界史のなかに大化の改新までの日本を一挙に解説している。古田の北九州王朝説と重なるところもあるが、聖徳太子、大化の改新、壬申の乱、のあたりは新羅からの亡命政権であったなど過激。天武天皇は淵蓋蘇文だとか。

スキタイ→高句麗→新羅→淵蓋蘇文

という文化をもっていて万世一系という思想が征服者として被征服者である大多数の縄文の民を統治するに必須と考える人物であったから歴史をそのように書かせたと している。古田史観は蘇我氏は九州倭国の皇室とするが、著者は伽耶の製鉄技能をもった一族で百済で政治的に成功していたという。

陰謀史観とでもいうべきもので学問としてはなかなかここまできめつけられないとはおもう。そもそも著者は歴史学者ではなくジャーナリストのため、複数の説 をミックスして料理したものだろう。しかしそこに臭さもあるが人間性の真実が織り込まれていて説得力があった。なかでも面白い見解としてモンゴルがわざわざ台風の時期を選んで2度も日本を襲撃したのは不用な南宗の兵を東海に沈めるのが目的だったというくだりだ。

中丸薫は外務省の委員になっているよう だ。

そこで著者の信用度を知ろうと出自をしらべると父とする堀川辰吉郎は明治天皇と側室千種任子の間の隠し子とも噂された怪人物。ただし堀川自身はその噂を否定して いた。井上馨と京都の芸者の間にできた息子ともいわれ、戸籍上は井上馨の兄・重倉の五男となっているとのこと。しかし陰謀史観のライバル福島某によれば中丸薫はその子ではないという。「中丸 の父は韓景堂(かんけいどう)と言って、450年続いた満州の旧家の長男で豪農の出身であり、理工系の大学を出て当時は京奉鉄道の技師であった。母は中島成子(なかじましげこ)、栃木県小山市出身で、これまた豪農の家の7人兄弟の3番目に生まれ、日赤の看護婦さんとして満州に渡り、帝国陸軍から張学良(ちょうがくりょう邸 に派遣され、そこで韓景堂と恋愛結婚、姉一人、弟一人の三人兄弟。当時の中国の風俗習慣で、韓景堂さんには何人も奥さんがいた」ということのようだ。

万世一系神話に疑問を もってしらべているのに、万世一系は遊牧支配勢力に都合の良い思想であるということめでは分かり、アフリカ諸国がまだ国家にもならず部族社会のままにとど まり、近代社会にテークオフできないという指摘は理解できる。しかしこれを今後の日本の指導原理として肯定する著者の見識を疑う。

西洋では英国、フランス、ドイツ、イタリアの歴史は擦り合わされていて大きな見解の差は少ないとおもうのだが、日本と朝鮮と中国はまだ擦り合わされておら ず、互いに勝手なことをいっている。これには互いに自己中の感情を制御できないという問題がありそう。学者だけでなく作家も含めて、すり合わせする必要あ りそう。

中丸薫女史は折角朝鮮族と日本人の両親をもっているので最適のポジションにいるとおもうのですが、まず指導層の出というプライドが正しい思索を妨害しているように感じる。

Rev. February 1, 2014


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