読書録

シリアル番号 1173

書名

日本を滅ぼした国防方針

著者

黒野耐

出版社

文芸春秋

ジャンル

政治学・地政学・行政学

発行日

2002/5/20第1刷

購入日

2013/12/07

評価



文春新書

鎌倉図書館蔵

藤沢周平全集を借りにでかけてついでに借りる

著者は防衛大機械工学科卆、防衛庁研究所戦史部主任

司馬遼太郎が失望した日露戦争後の日本の指導者がバカになる理由が書いてある。陸軍は長州、海軍は薩摩が主流となり、相互に北進または南進論を展開して国の予算を取ろうとする。外務省はその外でなすすべもなく、孤立。トップは調整をするつもりがなく、実質 不在。互いにコミュニケーションが成立しないまま国家予算の奪い合いをしていた。すなわち国を守るという目的がなどこかにとんでしまった。元老が生きているうちはよかったが、二代目になって互いに孤立。こうしてそれぞれのグループが利益追求集 団になってしまうという構図。ロシアと対立していた英国との同盟のおかげでロシアに勝ったあとがいけない。

ヨーロッパで第一次大戦が勃発して英国が援軍を 送ってくれと何度も要請したのに、陸軍も海軍も援軍をだすことは自分にとっては何らメリットはないと断っている。英国にとっては同盟の意味が無くなり、日 本が孤立無援になる可能性にも気が付かない。第一次大戦をみれば国家間の総力戦となり、一国で多数と対決することは日本には無理と分かっていたが、英国と の同盟は継続するのみでなにもしなかった。アメリカは英国と日本の海軍力を制限する必要を感じてワシントン会議を主催した。数を制限された海軍は漸減迎撃 作戦で数の不利を挽回すると夢想した。そして短期決戦で決着をつけると夢想して自らを欺いた。時と共に海軍は米英との協調を重視する条約派とワシントン体 制を否定し、日米必戦と考える艦隊派とに分裂する。陸軍は短期決戦で対処できると自ら欺いた。そして陸軍は初動の威力を重視する皇道派とロジスティックス の重要性を認識した統制派に分裂した。皇道派の青年将校たちは、後に二・二六事件を起こすに至る。そうこうするうちに艦隊派と皇道派が提携した。1931年関東軍が満州事変を起こす。

1935年にワシントン条約の期限が切れ無条約になる。ソ連が勃興して国家間の力学がシフトした。このとき永田軍務局長の推挙で石原莞爾が陸軍参謀にな る、そのとき永田軍務局長は皇道派みより惨殺される。石原莞爾はソ連に対抗するためにまず陸軍が北進し、北方の脅威が去ったら次に海軍南進するという案を 海軍にしめし た。ところが海軍は「北守南進」を主張して同意しなかった。永田が筆頭であった統制派は、東條英機が継承し、石原莞爾らと対決を深め(石原は予備役とな り)やがて太平洋戦争(大東亜戦争)に至る。企画院総裁だった鈴木貞一は戦後、「もし永田鉄山ありせば太平洋戦争は起きなかった」、「永田が生きていれば 東條が出てくることもなかっただろう」とも追想していた。「永田の前に永田なく、永田の後に永田なし」と言われた英才であったという。

1937年に蘆溝橋で日中が軍事衝突。陸軍の短期決戦が有効でないことが判明し長期持続戦になる。こうして陸軍は15年戦争して結局負けるわけ。1939 年松岡外相がドイツの意向を見誤ってドイツ、イタリア、日本の三国同盟成立。日本はこれにソ連も加えようと図ったがイギリスをくじくために同盟国のソ連を まず攻撃したいと考えたヒトラーに拒否される。こうしてアメリカは日本を敵国とみなすようになる。松岡はさらに米英中対策として日ソ中立条約を締結する が、ヒトラーはソ連を攻撃し、無意味になる。スターリンの意図はこれで日本を南進させ米国をたたくというものであった。陸軍に対抗心のある 海軍はスターリンのもくろみ通り、石油を理由に南進して結局英国、米国を敵に回してしまったという構図。その前段階として松岡の反対を遮って永田が南部仏 印進駐をまず行う。これがルーズベルトをしてハルノート突きつけるノン・リターン・ポイントとなる。山本は海軍の迎撃思想をすて真珠湾攻撃思想に変身す る。これは短期決戦思想なのだが、結局長期戦になって負けるのである。みな自分のことしか考えていない。自分のことしか考えていないということ は最高機密なので国民はなにが起こっているか気が付かないまま事態は進展してゆく。

昔陸軍、今原発村ではないか?日本の縦割り利益集団の構図はなんら変 わっていない。今回の安倍政権はまさに安倍のための安倍による国家乗っ取り作戦そのものだ。中国が経済的に力をつけ、軍備に金を使えるわけだから軍事的に 対抗するのは無意味。米国との同盟しかないが、その米国は経済力を失い、もう中国と軍事対決する力はない。日本経済にカンフル注射をしても、国民は疲弊 し、やる気をうしなっていますからうまくゆかない。企業の接待費の半分は無税にするなどますます、密室政治をはびこらせるだけ。無産階級化した若い世代は 子供を育てることができないから人口はますます減少する。唯一のチャンスは日本は息をころして小さくなってひそみ、中国が自壊することを待つということし か手はないのではないか?座して死ねというわけではない。ミツバチのように痛い針を隠し持つことは当然である。

みんなの党を飛び出した江田元幹事長に期待できるか????


トップ ページヘ