読書録

シリアル番号 1133

書名

中国の海洋戦略にどう対処すべきか

著者

太田文雄、吉田真

出版社

扶養書房出版

ジャンル

兵法

発行日

211/8/15第1刷

購入日

2013/02/20

評価



鎌倉図書館蔵

防衛大学現役教授による解説

日本を含め西欧の海軍はクラウゼヴィッツ流の兵力集中の虜だが中国は孫子の兵法にしたがう独特の戦略をもつ。すなわち

@三戦:(1)輿論戦(media warfare)、(2)心理戦'(psychological warfare)、(3)法律戦(legal warfare)
A超限戦:なんでもありということ。サイバー攻撃、レアアースの輸出禁止、日本人逮捕がその例
B瓦解戦:宣伝により相手の虚偽性、欺瞞性、反歴史性を示し、民心と国際社会の支持を失わせ孤立させ、みずから瓦解させる戦略

の非軍事戦略である。中国はいま尖閣にたいして瓦解戦をしかけ、最後に日米同盟を分断しようとしている。

中国の国家海洋戦略は接近阻止・領域拒否(anti-access and area denial-A2/AD)である。近海防御のために第一列島線(沖縄列島)内側を確保しようとしている。沖縄から米軍が撤退すれば中国は尖閣列島に侵攻 するであろうことは容易に推察される。ちなみに第二列島線は小笠原列島。

中国はすでにアデン湾に海賊対応として艦隊を展開している。また海南島に核弾頭弾道ミサイル搭載原潜を配備予定。中国は現時点ではSea Denial流の海軍戦略で機雷、ミサイル、小水上艦艇、非大気依存推進潜水艦、陸上基地依存航空機、早期警戒機、対艦弾道ミサイル(anti ship ballistic missile-ASBM)や機動弾道ミサイル(maneuverable reentry vehicle-MaRV)を装備している。ASBMやMaRVは空母キラーと呼ばれ発射時の初期値で狙う日米の弾道ミサイルは無力で日米にとって厄介。 イージス艦もターゲットにされる。またフリゲート艦に配備された垂直発射の対空ミサイルは日米がもつ中距離対空ミサイル(standard missile-2:SM-2)と同程度の能力を持ち、駆逐艦が搭載しているラムジェットやターボファンエンジン搭載の対艦攻撃用巡航ミサイルもアウトレ ンジ攻撃が可能で日本にとっての脅威となっている。これは超水平線レーダー(over-the-horison Targeting-OTH-T-)の高性能化が貢献しているためである。また対艦攻撃力をもつ航空戦力を持っている。このようなミサイルセントリック戦 略に日本は全く立ち遅れている。

これでは日本は座して死を待つことになる。日本も米軍がもっている空対地巡航ミサイルであるマーベリック、空対艦巡航ミサイルのペンギン、そして艦の垂直 発射システムから飛ぶ艦対地巡航ミサイルのトマホーク、航空機や衛星からレーザーで攻撃するairborne laser(ABL)を装備し、策源地攻撃のできる法体系整備が急がれる。

日本は専守防衛で「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する自衛力も自衛のた めの必要最小限のものに限るなど憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢である以上、敵を自国に迎え撃つことが前提となるわけだが、実際には、専守防衛 に基づく日本の防衛政策の中にも、敵地を攻撃する発想もある。「日米防衛協力のための指針(いわゆるガイドライン)」では、必要な場合には米軍がそうした 任務を遂行すると定められてきた。また、現時点で自衛隊はそのための能力を有していないが「他に適当な手段のない場合」においては、「座して死を待つ」の ではなく、一定の制限の下で攻撃的行動を行うことは、法理論上は認められていると解釈されてきた。近年、弾道ミサイル脅威の高まりに伴って、我が国独自の 敵地攻撃能力が関心を集めるようになってきた。ただ、それは専守防衛の基本的な枠組みを放棄することを求めるものではなく、専守防衛を維持した上で、必要 な場合に弾道ミサイル脅威を取り除くための敵地攻撃を行うという議論である。

1980年ケ小平は積極的防護戦略をうちだして以来、中国軍はこの方針を変えていない。

中国は長期的には英国のジュリアン・コーベット卿が提唱したコルベット型相対的制海(command of the sea)を経由して米国のアルフレッド・マハン提唱の空母を持つマハン型の絶対的制海(sea control)に向かおうとするだろう。ただ中国はいまだ海外に自前の軍港を持たない。

問題は中国においてはシビリアンコントロールができていないふしがある。かっての日本軍のように軍部独走の気配がある。

本書に関し防衛白書や防衛研究所の出版物などと酷似した記述が複数あると外部から指摘があった。参考文献リストには、これらの出典を明示していなかった。 防衛大は2013年3月に調査委員会を立ち上げ、太田教授から事情を聴き懲戒免職にしたと発表。この本をよめば防衛白書をよんだと同等ということを防衛大 が教えてくれたわけだ。

Rev. April 17, 2013

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