読書録

シリアル番号 1112

書名

「科学技術大国」中国の真実

著者

伊佐進一

出版社

講談社

ジャンル

技術

発行日

2010/10/20第1刷

購入日

2012/06/07

評価



講談社現代新書

東大工学部宇宙工学科卒の元科学技術庁経由大使館書記官による衝撃のレポート

日本の技術力はすでに中国に負けている!?イエス負けている。なぜ?

中国は理系人材を大切にする国である。一方、日本は理系人材が報われない国である。日本の理系人材は、学歴が上がればあがるほど、就職が困難となる。ま た、理系は給与の面でも報われないことが通説となっている。毎日新聞の試算では理系人材の生涯賃金は文系より5,000万円も低い。結果として2008年 の工学部志願者は前年比1割減、5年間で4割の減少となっている。1992年から20年間下がりっぱなし。

中国における理系人間の処遇は手厚いというか官庁の次官以下全て理系である。国会議員も理系、党中央委員の序列1位から9位まですべて理系。すべて専門家だから国際会議でもリードする人材である。法科出身で固める日本の官僚などかなうはずもない。

ではなぜノーベル賞は日本が多いのか。それは60年前の業績に与えられる賞だから今は日本が受賞する番。だがすぐに中国しかいなくなるだろう。

米国人はヒーロー好きである。ヒーローを育てることに国民は支援を惜しまない。だから理系のヒーローを生み、その技術が稼ぐ金で潤い、世界を支配できている。たとえばアップル、グー グルの創業者を見ればわかる。中国も同じ大陸国でヒーロー好きである。日本は活躍しているうちは黙ってみているが、調子にのると出る杭は打たれてしまう。 ヒーローは敬遠されるのだ。ハリウッド映画はヒーローの活躍を自分のことのように楽しむのだが日本映画は苦労に耐える姿が共感をよぶ。「おしん」は中国でも評価されたが、 これは主人公が苦労を重ねて最後に経営者として成功したというサクセス・ストーリーが共感を生んだため。主人公はヒーローなのだ。日本人の観点とまるでちがう。

ここから恐ろしい仮説がうまれる。中国は米国のように理系ヒーローが支持され、成果が出てきそうな気配である。いままでは安い人件費に負けたといっていればよかったが、こうなると日本はますますどうしようもなくなる。食料や燃料購入の外貨をどうやって稼ぐの?

すでに中国は人工衛星打ち上げサービスを3回受注している。日本は1回だけで負けている。

シリコンに中性子を照射して一部のシリコンをリンに核変換して均一性の高い半導体素子をつくるシリコン中性子ドーピングという手法がある。これでハイブリッド車のパワー半導体素子をつくるに必要な実験原子炉は日本にはない。中国にはある。

アジアのシリコンバレーと言われる国家レベルの中関村サイエンスパークがある。ただまだ大学中心の開発体制にすぎない。企業は組み立て産業中心でみずから 要素技術を開発する段階には至っていない。中国がここにとどまってくれれば日本にもチャンスがある。どの国でも国家機関は官僚制で本来不効率なのでそのうちにスローダウンすること に期待するしかない。だが日本は文系中心だからもっと始末に負えない。したがって日本に将来はない。

日本では島村武久(東大法)や伊原義徳(東工大電)などの科学技術庁の官僚がプルトニウムサイクルに固執してもんじゅや六ヶ所村の再処理プラントに国家の 研究費をごみ箱に投入した。伊原義徳など「プロジェクト不滅の法則」などとうそぶいている。そして誰も最終処分を解決しようとした官僚も電力会社の人間も 居ない。

漁夫の利はどこにある。韓国?やはりオープンイノベーションに強い米国??

Rev. June 17, 2012

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