読書録

シリアル番号 1047

書名

「原発」革命

著者

古川和男

出版社

文芸春秋社

ジャンル

サイエンス

発行日

2001年8月20日第1刷

購入日

2010/04/02

評価

文春新書

ブックオフで購入 350円

原発の問題点に関し目からウロコの啓蒙書

軽水炉原発の問題点は

@核燃料体が固体で密閉されているため、製造費がかかり、燃えカスの除去は運転を停止し炉から取り出す作業が必要である

A発生するガスは被覆管に密閉されているため高圧になるし、中性子を吸収して反応効率を下げる

B燃料が新しいうちは制御棒またはバーナブルポイゾンで中性子を吸収する無駄がある

C定期的に燃料交換と位置換えが必要

D負荷追従運転すると燃料内部の温度変化により燃料棒を劣化させる

E一度停止するとキセノンガスが中性子を吸収してしばらくの間再起動が不可能となる

F冷却材と減速材に軽水を使うため発電サイクルの熱効率が低い

Gプルトニウムを副生し核拡散防止に金がかかる

Hピュレックス法という燃料再処理は水溶液系のため臨界防止のため小型、細分化装置で経済性が低い

著者はこの欠点を解決するために

オークリッジ研究所で航空機用ジェットエンジン実験炉として研究されたフッ化リチウム、フッ化ベリリウム2元系溶融塩(フリーベ)にフッ化ウランを溶かし込み、黒鉛で減速して核分裂を行う液体燃料炉を提案する。

反応熱も別系統のフリーベで取り出し、廃燃料処理もフリーベで行う。

フリーベの熱容量は大きいので太陽熱貯蔵用にも適する。

この炉は増殖炉としても適している。

容器や熱交換器にはハステロイを使う。反応容器は黒鉛を内張りして中性子を減速して容器を中性子脆化から守る

制御は黒鉛制御棒を挿入させることにより反応を開始する。

著者は更にこの溶融塩炉を発展させてトリウム燃焼炉につかうことを提唱している。

プルトニウムを副生しないし、プルトニウムを消滅させることにも使える。


ではなぜだれもこのようなものを開発しないのか?答えは

@トリウムそのものには核分裂性がないので兵器にならない。従って米英仏ではだれも興味を持たない

Aトリウム炉を固体燃料とすれば副産されるウラン232のガンマ線が強すぎて燃料交換が困難。液体燃料なら問題ないがオークリッジ研究所以外ではその成功が知られていなかった

B溶融塩炉はプラントメーカーにとって金にならず魅力のない商品であるため誰も開発しない。米国の電力会社は小さく自ら技術開発の興味を持っていない。日本の政策決定者は文系であ るため、自分では理解できないことには動かず、独自構想の開発が可能だとだれも思わない。そしてフランス・ロシアが始めた袋小路の高速増殖炉開発を真似て1兆円もの死金を投入し、上手く行きそうも無いのに追い銭をつぎ込んでいる。唯一古川先生は違うが、国家が開発予算をつけないでいるうちに先生は歳をとってしまった。一種の悲劇であろう。


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