読書録

シリアル番号 1003

書名

学問の下流化

著者

竹内洋

出版社

中央公論新社

ジャンル

随筆

発行日

2008/10/10初版
2008/12/15第3版

購入日

2009/01/16

評価

友人のS.K.から「これはお勧めです」と言われて、駒場の東大生産研究所で開催されたCEEシンポジウムにでかけたついでに購入した。

パラパラとめくってみると「新書を書くようでは学者でない」という文脈での下流ということのようだ。たとえ学者的嫉妬の偽装の面はあったにしても、読者は気がつかない。

さてその社会学の流れをたどったアンドリュー・E・バーシェイの「近代日本の社会科学 丸山眞男と宇野弘蔵の射程」が紹介されていたのにはうれしくなった。丁度1年前に読んだ本だ。このような社会学は下流の学問とも言っているようでもある。しがしたがって著者によれば経済学は上流ということになる。

佐藤優などの脱藩官僚の書いた「日米開戦の真実」は楽しくよませてもらっている。

東大法学部は学問所というより国家貴族養成所でこれは特殊なものであると著者は指摘する。この本で丸山真男が自己内対話で「秀才」とは「自分のやっている事をいつも意義があることだと考えて、その虚しさなどということは思いも及ばない人間のこと」と定義しているそうだ。

黒木亮の「エネルギー 上下」にも出てくるが通商産業省キャリアの天下り先としての石油公団の解体やこのドサクサで弾き飛ばされた元サハリン石油ガス(株)(SODECO)の地質技術者の話も聞こえてきて国家貴族養成所出所者の醜さもきわまった観がある。

学歴貴族社会の崩壊は「学歴ルサンチマン」が積もり積もった結果、日本人の「不幸の等分化」または丸山眞男のいう「引き下げ」デモクラシーによって生じた。エリート官僚バッシングも同じルーツだろう。最近はバッシングで官僚の魅力もうすれ、学歴貴族社会は崩壊、外資系金融機関にゆきたがるそうだがそれも米国のつまずきで崩壊していまどこに就職しようとするのであろうか?

技術系に関しては駒場の生産技術研究所の教授たちがCEEシンポで工学系の学生達がグーグルに就職したがるので困っているととこぼしていた。

私は東大法学部卒の同世代の人間を4人知っている。一人は7才年上だがまさにエリート中のエリートで官僚のトップに上り詰めて政治家を補佐して国家を動かした。もう1人は農水省のキャリアとなったが、鳴かず飛ばず。5つの下部機関をわたって最近引退し、スキー三昧の同年輩。役人時代のことは一切話さない。よほど悪いことをしたか、語るに値しないと思っているからだろう。これも同世代だが、役人になることも、法曹界に入るのも拒否してジャーナリストになった男や民間の自動車会社に入って役員になった男は現役時代のことを楽しそうに語る。

アメリカの大学生には「タイタニック・メンタリティー」があるという。どうせ、氷山に衝突して沈没するのなら、乗っている間は「楽しく贅沢に」やろうじゃないかというメンタリティーという。これは1970年のローマクラブの「成長の限界」が発表されて衰退モデルが社会に定着してからという。

東大を守旧の本山とし、京大を進取の砦とする風潮はその歴史にある。1887年の一高は士族出身が69%、四高(金沢)は士族出身が71%。五高(熊本)は士族出身が77%であったのに三高(京都)は士族出身が37%であったことに起因するという。平民出は自由闊達な校風を生み出し、それが京大に受け継がれたというのだ。残念ながら二高(仙台)のデータはない。

いまのオヤジ世代は根っからのセクハラぽいのは何故かと考察し、性の拘束規範が強かったのは戦前ではなく、むしろ、戦後それも1950年以降だという。だから敗戦時幼かった世代は日本史上もっとも清教徒的だった。しかしこの世代は1980年以降まったく異なった性愛規範の時代におかれ、特攻くずれならぬ清教徒くずれになってしまったのだろうと考察する。

著者は英国に深い興味を持っていてヴィクトリア朝時代の中流階級文化は、偽善と抑圧で語られるが、その時代のアメリカの教養ある妻が夫宛の手紙に「次の日曜日にあなたの溜まっているものを出してあげます」と書いているのをあげ、偽善と抑圧の認識は間違っているのではと指摘する。

ミネルバのフクロウ」という ソフト・パワーの提唱者ジョセフ・S・ナイが引用した懐かしいヘーゲルの言葉を再確認した。ジョセフ・S・ナイはオバマが駐日大使に任命した。産業の重点が移動することを「ペティーの法則」 というのだと知り、「専門家こそ大衆」というオルテガ・イ・ガセットの言葉も知った。

スキーに山にと出かけたため、旅のつれづれとして12日かかって読破した。これは読書録をうまくまとめた本だとようやく分かる。私も乱読だが著者は更に輪をかけている。楽しい時をすごせた。友人のS.K.に感謝。

Rev. January 31, 2009


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