読書録
シリアル番号 |
107 |
書名 |
現代の技術者 |
著者 |
菊池誠 |
出版社 |
新潮社 |
ジャンル |
技術論 |
発行日 |
1964/3/31発行
1964/4/25第2刷 |
購入日 |
1964/05/01 |
評価 |
優 |
東大物理学部卒、工業技術院電気試験所の研究者、ソニーの中央研究所長が米国のMIT留学、ショックレーとの交流ご半導体素子研究者になった著者の教育を含め、含蓄のある技術・文化論。
父親は文系の役人だったが、反抗して理系にすすんだ。文系の人間は科学や技術に弱いことを誇らしげにさえいう態度、理系は変な人間だとか、非常識だとか、コモンセンス簡単に割り切るサイエンスはおかしいとか、人間はもっと哲
学的で、宗教的で深淵でないと本当の偉い人間ではないとうそぶくのをみて反発したのも裏に在る。著者は哲学偏重に反発していた。
著者が戦前、ラジオで軍人が教訓的な話をしたときに「いくちどうおん」というのを聞いた。なんのことはない「異口同音」のことだ。どこかの首相も
「でんでん」と読んでいたのと不思議と重なる。また新宿駅で乗り手が多い山手線のドアが開いたとき、ただ一人降りる軍人が「下がれ下がれ」と大時代的な叫
び声をあげて群衆を睨み据え、ひろびろと道を開けさせ、そこをわざわざとゆっくり出てゆく、実ににくにくしい姿を今でもはっきり思い浮かべると書いてい
る。これが文系しはいというものの真の姿だ。
米国の一人一人はゆったりと研究しているがなにせ数が多いのでかなわない。それから仕事のケリをつけることを知っている。ダメなものをいつまでも綿々と継続しない。そうして転向先で大きな仕事をしている。すなわち不用なものは捨てることを知っている。だから効率がいのだ。
国立研究所にはいったが、学問的な研究論文には、工業上重要な技術の奥伝は決して書いてない。
ここでショックレーチームがトランジスター発明にいたる思考の過程を根源までおさらいしている。
旧制高校のよさは全寮制だったことだ。その利点は教え込まれた人生観を一度根底からぶちこわされることだ。そこから徹底的にかんがえることを学ぶ。
最後の第十章6 文官優位ということに
官庁では、理科系の人は、決して文科系の人の上には出られないように仕組みが出来ている。
官庁に付属した研究所は、いわゆる外局扱いである。本省の課長が外局の部長に相当し、外局の課長は本省の係長にしか相当しない。必然的に、文官が、技術者を管理すると言う建前をうもことになる。かいしゃでも何でも同様である。
文科出の人達の中には、
「おれは科学に弱くてね」
と誇らしげに話す人が多い。これは逆説的に、
「おれは、科学のように単純に割り切る考え方は駄目だ。従ってどうもデリケートであり、宗教的であり、人間が高尚らしい」といっているに近い。
結局、こういう人達が、日本の科学技術政策に参画し、会社の技術開発の方向づけの責任を負うのである。科学技術の将来を、科学技術に信頼を置かない人たちの手で決定する程乱暴なことがるだろうか。
技術のトピックスを勉強することは本を読めばできる。しかし、進歩の方向を見極め、方針を作り出す仕事は付け焼刃でできるはずではないはずだ。
技術者は一代限り、
経営者は自分の会社のも少し長い生命をみることはできる。
これは私が駆け出しの頃読んだ本だ。53年後に本棚から再発見して拾い読みした。なーんだ、この10年間繰り返して言ってきたことが、ここに書いてあった
のだと気が付いた。現在の日本が2流国になったのはまさに文科系優位の間違ったリーダーシップが原因だったとわかるのである。
この本を読んだ後、「シルバー民主主義」、「シルバーデモクラシー」「年寄り民主主義」ということばについて学んだ。
「シルバー民主主義」には、
「老害」
「頑迷で考えの浅い老人たちが政治を壟断している」
「無駄なノスタルジーに浸る団塊の連中が例によって奇妙な影響力を発揮しようとしている」
「テレビばっかり見ているじいさんばあさんが日本の政治を停滞させている」
「ヒマな老人って、やたら選挙に行くんだよね」
「っていうか、あの人たち政治だの揉め事だのが大好きだから」
「きっと無知な分だけ声がデカいんだろうな」
という感じの行間の叫びみたいなものが含まれ始めている。
昨今のネット論壇の文脈では、「シルバー民主主義」なるフレーズは、「衆愚政治」「商業主義マスコミ」「スキャンダリズム報道」「センセーショナリズム」「出歯亀ワイド」「メディアスクラム」といったあたりの言葉と同じテーブルに並ぶことになっている。
マスコミを極左化させる「文学部バイアス」、「ガラパゴス平和主義」は《マスコミに入る学生は超エリートではなく、役所に入れる法学部や銀行に入れる経済
学部には、マスコミ志望は少ない(東大法学部から朝日新聞にはいった友人は兄弟が共産党のシンパだったので役人にはなれないと妥協した。東大経済学部からNHKに入る学生は、2年に1人ぐらいだった)。多いのは普通の会社に就職できない文学部卒
で、法学部エリートに対する左翼的ルサンチマンがある。現場を離れると、正直になるのかもしれない。
産経新聞とFNNが合同で実施した世論調査の結果を見ると、全体として、安倍政権の支持率は、高齢者になるほど低い。若者はよりメディアの論調に盲目的に従う。
そういう意味で菊池誠氏の論調は「理系民主主義」とでもいうものだろう。
Rev. July 30, 2017