読書録

シリアル番号 086

書名

パーキンソンの法則

著者

C・N・パーキンソン

出版社

至誠堂

ジャンル

社会学

発行日

1961/6/25第1刷
1961/10/11第10刷

購入日

1961/11/01

評価

原題:Parkinson's Law

部下にはよませられぬ本とのキャッチ・フレーズでベストセラーになった本。本書の翻訳者はミュンヘン工科大学 正教授になる前の東大物理学科助教授時代の森永晴彦氏である。

パーキンソンの第一法則は「役人の数は、なすべき仕事の軽重有無には関係なく、一定の割合で増加する」となる。

その公式は x = (2km+l)/n 

この方程式は訳者の森永先生によればディメンションが合わないからジョークに過ぎないという。いずれにせよ森永先生は本書をサタイヤ的であるという。内容は自治行政研究A共経営研究科の八島大三がバランスよくまとめているのでそちらをご覧下あれ。この本はもう絶版であるが、一度復刻されたことがあるという。しかし森永先生によればこの復刻版からインジェリティティス(劣嫉症)の章が完全に抜け落ちていたという。出版社が自己規制したのかどうかわからないが日本社会がすでに劣嫉症を発症しているためなのか気になるところである。

パーキンソンの法則の劣嫉症と類似なものにピーターの法則がある。

翻訳のいきさつは以下の通りと森永先生から聞いた。米国の原子核物理のワインバーグ教授(オークリッジでトリウム溶融塩炉の開発をした)が 東海村原研の開所式に出席した時、原研の副所長をしていた嵯峨根遼吉教授に「パーキンソンの法則」 の本を贈呈し、原研がこのようにならないことを望むと言ったと聞いたことがきっかけである。森永先生の東大物理学科の恩師が嵯峨根遼吉先生だったのである。その後、ロンドンで一般図書として広く売られていることを知って日本に紹介しなければと思い立った。しかし、翻訳者がみつからないのでやむを得ず自ら訳したのだという。「部下によませられぬ本」という副題は資生堂に勤めていた従兄弟の森永和彦氏の提案とのこと。2冊目からの翻訳は至誠堂の福島正光氏である。

ちなみに嵯峨根遼吉教授は1904年に電子が原子核の回りを回る原子モデルを世界で始めて提唱した長岡半太郎の五男で嵯峨根家に養子に入った人である。東大物理学科卒業後、1932年にサイクロトロンを開発したカルフォルニア大のローレンス教授の下に留学した。嵯峨根教授は戦後の1955年にローレンス教授の要請で東大教授を辞職して米国に渡ったため、教え子の森永氏や 故林主税氏は東大で孤児となったという。孤児となった森永氏は東大の助教授時代に日本の大学を嫌って米国とヨーロッパの大学に転出し、林氏は仁科芳雄博士のサイクロトロンが上手く稼動しなかったのは真空を保てなかったためと日本真空(ULVAC)を 育て半導体製造装置・PV製造装置メーカーとして成功することになる。 林氏のお嬢さんはノーベル物理学賞受賞の朝永振一郎氏の息子と結婚され、林氏は2010年亡くなった。嵯峨根教授はその後、パーキンソンの法則通り、官僚にいぶり出されて原研を去った。そして原研は動かない高速増殖炉を抱えて進退窮まっている。

戦後、陸軍から米軍機がローレンス教授から嵯峨根遼吉宛としてばら撒かれたチラシをもらったという。中身は原爆を近々日本に投下できる準備が出来たという内容であったという。そしてその後、広島・長崎に投下されたのだ。陸軍は投下前に知っていたわけで、嵯峨根遼吉先生は戦後知ったわけである。

ケンブリッジのキャベンディッシュ研究所に学び、ニールス・ボーア博士の下で量子力学の研究をして帰国した仁科博士は終戦近くに日本の原子爆弾開発に巻き込まれる。アメリカによるマンハッタン計画が開始された翌年の1943年(昭和18年)に、理化学研究所の仁科芳雄博士を中心に開始された。

この計画は小規模なもので、ウラン235を洗練するにも、プルトニウムを得るにも十分な設備がなかったとされている。 1945年(昭和20年)のアメリカ軍による空襲で設備が焼失し、日本は原爆を完成することなく8月15日にポツダム宣言を受諾(無条件降伏)し、ここに日本の原爆開発は潰えた。

文献資料の類は一切残っていない。仁科芳雄博士の秘書でのち仁科記念財団と日本アイソトープ協会の両方の事務をされた横山すみさんが破棄してしまったのではと推察している人がいる。何も分からない米軍が仁科博士らが苦労して作ったサイクロトロンを解体して東京湾に沈めてしまう愚挙をしたのも歴史となった。

(2000/6/6と2005/9/23にセラ峠にて森永晴彦氏より直接うかがう)

パーキンソンの法則後、パーキンソン氏はいくつか類似書を書いたが第一法則がやはり最大傑作である。

金は入っただけでるーパーキンソンの第二法則」がでてから第一法則といわれるようになった。

パーキンソンの第三法則は「拡大は複雑を意味し、複雑は腐敗を意味する」

そのほかにも「パーキンソンの成功法則」、「10年後のパーキンソンの法則」がある。

Rev. November 28, 2010


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