原発の過去と未来

過去

Bulletin of the Atomic Scientistsに掲載された1951-2017の世界の原発建設統計がある。



1957年のウィンズケールの核兵器用プルトニウム製造目的の黒鉛減速材の火災は北米と西ヨーロッパの原発建設を少しスローダウンさせただけであった。日 本はまだ原発には未参入。

1973年のオイル・クライシスが 北米、西ヨーロッパ、および日本の原発への傾斜投資を加速させたことが読み取れる。

1979年のスリーマイル事故後、北米と西ヨーロッパの新規原発計画はなくなり、計画済みの建設を消化するだけになる。しかし東・中央ヨーロッパは伸び続 ける。アジアの日本は世界の動きに無関心で影響をうけず、定常的に建設を継続。

1986年のチェルノブイリ事故後、東・中央ヨーロッパも完全に衰退期に入るも、日本は影響を受けず建設を継続。

1995年 日本に入れ代わるようにアジアの韓国、台湾、インドで原発が採用されるようになるが、新設プロジェクトマーケットがかっての1/6となる。

1997年 旧ウェスティングハウス・エレクトリック(WE)が、原子力部門の将来性に見切りをつけ、WHを英国核燃料会社に売却し、その金でアメリカ最 大のテレビ・ラジオ・ネットワーク(CBS)を購入。

1999年CBSはバイヤコムに買収され消滅。

2001年に9/11テロ発生。

2002年にピークオイル説、人為的温暖化説に乗るようにして原子力ルネッサンスが生じた。フィンランドが原発増設を決め2005年に着工。

2005年、米国ブッ シュ政権が「包括エネルギー法」をつくろ。融資保証などの優遇策を掲げたため、多くの事業者が新規建設計画を検討し始める。

2006年使用済み核燃料の再処理を柱とする国際的協力体制の構築計画として「グローバル原子力パート ナーシップ」。フランスの欧州加圧水型炉(EPR)の建設計画、英国「エネルギー白書」(07年)、アジアの原発建設熱が発生した。

2006/8資源エネルギー庁の柳瀬唯夫原子力政策課長(現経済産業政策局長)が中心となって「原子力立国計画」を書きあげる。原発輸出の旗振り役は今井尚哉海外戦略担当審議官(現首相補佐官)。

2006年に東電の勝俣会長の弟が社長だった丸紅のそそのかしにのって東芝が英国核燃料会社が売り出していたウェスティングハウスを高値で 競り落とした。プラント需要がピークの1/6になっても10年間フルスタッフを雇用し続けるなんて米国ではありえないためWHは空洞化していたと考えられる。

2007年 石油価格上昇、資材費上昇

2010年 シェールオイル革命で原発は割高となる

2011年に福島第一の事故が発生。これで世界での原発の命運がつきたようだ。空っぽのウェスティングハウスというババを引いた東芝は原発建設ビジネスを 守るために唯 一利益を上げている医療機器とフラッシュメモリーを売り払って、消えゆく原発というババだけを手に茫然と立ちすくむという不様な姿をさらしている。

日本の原発で最も安く建設できたのは、東京電力の柏崎刈羽原発の6号機もしくは7号機で、1キロワット当たり25万円程度。2009年12月に運 転開始した北海道電力の泊3号機は、同32万円。今では、原発の建設コストは2005年の底値と比較して3倍から5倍ぐらいになっている。一方でガス火力 発電所なら、1キロワット当たり10万円程度で建設できる。にもかかわらず東芝は固定価格契約をしたわけ。あとはチャプター11による破産処理しか手はない。問題は東芝株は日 本銀行と年金財団が持っている。

原発技術の寿命がすでに尽きたのにも気が付かず、大艦巨砲主義に凝り固まり、メルケルをせせら笑っていた日本の経営者・官僚・政治家の愚鈍さが明瞭に分かる統計だ。


未来

これだけ鈍感な原発村も福島第一の廃炉の困難さ、東芝の苦境を見て、いよいよ原発は金食い虫と観念したようで、電力自由化では持たないと考え、原発は全て 政府に押し付けて逃げようと水面下で画策しているという。

経産省の文系エリートたちはこれ をチャンスと西と東に設立する国策原発会社に原発を集約し、運転を継続するプランを立てていると聞く。運転継続の表向きの目的は投下資金を出した銀行救済 であるが、隠された動機は48トン溜まっているプルトニウムを抑止力に役立てたい。しかし原発が一つでも動いていないと隠された動機があからさまになってしまうからだろう。確かに隣国に予測不能な独裁者がいるのは気がかりではある。

抜け目のない役人のこと、当然使用済み燃料保管費用確保のためと称してグリッドには高値の電力の買い取り義務を押し付けるだろう。電力自由化の埒外とする のだ。このスキームが危険なのは国策会 社ともなればもんじゅの職員のように無責任体勢となり、事故は頻発。補償費は税金で補てんとなるから消費者は結局彼ら文系役人に骨までしゃぶられる恐ろし い世界の展開が予想される。 政治家は取り込まれてふにゅふにゃ。この国策会社に天下りする官僚は高給を食み、事故時は責任を取らないで済むお手盛りの法律で逃げおおせるという世界が 展開されそうだ。

消費者としては高コストの国家電力に依存しない、オフグリッド電力で自衛するようになるだろう。そのときはこの国家電力は立ち行かなくなり、税金で使用済 み燃料の管理をせざるを得なくなる。

こうして現在の日本よりさらに劣化した世界となる。

使用済み燃料の処分場を引き受ける自治体はどこにもないから、たとえ事故を起こさなくともその使用済み燃料はそこに留まらざるを得ない宿命にある。現在の 原発立地県は今後数百年間迷惑施設を黙認するかわりに慰謝料をとって生活するという暴力団的組織に変貌せざるをえない。 そしてまともな産業は誘致できない。住民の雇用のチャンスは警備員だけという寒々とした世界が数百年間継続することになる。

February 22, 2017
Rev. March 10, 2017


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