上野の美術・博物館めぐり

2015-2016年

2015年12月17日(土)、友人T.H.と上野で久しぶりにデートした。いつものように上野精養軒で 生 ビール、カレーライス、コーヒーで2時間彼のMHI時代の思い出を聞き、のち国立博物館で開催中の「始皇帝と大兵馬俑」を見た。2011年に兵馬俑を 訪問していたが、展示がうまく、よく時代を理解できた。よくできた銅車馬のコピーも展示されていた。

2016年3月9日(水)、友人T.H.と上野の東京都美術館の「ボッティチェリ展」と江戸東京博物館の「レオナルド・ダ・ヴィンチー天才の挑戦」を梯子した。無論いつものように上野精養軒で生ビール、カレーライス、コーヒーでたっぷり2時間を過ごしたあとだ。

私から日本の製造業が中国に追い越されたのは日本がしたことを中国がまねしたからで自業自得としても、トヨタを除いて製造業ほぼ全滅。米国の企業でもだめなもの はだめだが、それでもしぶとく生き残るというより世界をリードする企業がどんどんでてくる理由はなんだろうとT.Hに質問した。

彼の発言要旨は:

昔ベクテルとの JV Project にリーダー格として参加した千代田マンの中に、「千代田の EPC Contractor としての力は、今や(1990年代半ば頃) LNG Project 等大型プロジェクトの国際受注競争で勝てる位になった」と豪語している人が居る、と聞いた。Malaysia Refinery, Das LNG Expansion, Oman LNG 等々大型案件を国際入札競争に勝って受注しているのは事実。が、これらの入札競争で千代田が勝った主要因から言って「Contractor として欧米コントラクターと同等もしくはそれ以上の力が付いた」と言い切るのは実態が判ってない。Malaysia Refinery はスケジュール遅れで大赤字、Das LNG Expansion は日揮と談合(Malaysia LNG とのバーター)しベクテルは Reimbursable Based Offer で失格したと言う状況下での受注、Foster Wheeler と一緒にやったOman LNG では勝ったのは見事だが薄利(Bechtel Offer Price との差は5%)。

千代田がこれらの入札競争で勝った一番の要因は「Lowest Price Bid」。日米欧韓コントラクターとの見積もり内容(複数プロジェクト)を入手した資料(実際に提出されたもの)をベースに比較したことがある(1998 年)。違いの中で一番際立っているのは、「Contingency and Profit」 のコストアイテムで、韓=3〜4%、日=5〜6、欧米=10〜15%。つまり、日米の Total Lump Sum Price の差は 10% 以下が多いから、日本企業のEPC Direct Cost (including Overhead) は 欧米企業のそれを上回っている。Bechtel Asia Pacific では、Contingency and Profit <10%をベースにしたプロポーザルを 「Suicide Level Price Offer」 と称し、こうしたOfferをして来る会社が参加している入札には原則参加しないことにしていた。実際、こうしたプロポーザルをするのがほぼ確実と思われ る日本企業が参加している Bid Competition に呼ばれたが、客先にその理由を述べて辞退する旨通知した。その時の客先は Exxon でプロジェクトサイズも3億US$位で非常に魅力的だったが(後日談あるが、それは別の機会に)。かように、 Project Evaluation は見積もり引き合いに応じるかどうかと言う時点から始まる。Bid Invitation を貰った時点で(場合によっては、その時点までに)、BD Manager (営業の責任者)は受注競争に勝てるかどうかを分析し見積もりに要する費用と共に本社(SF)に提出し、見積もり費用配分の承認貰ってから見積もり作業に 入る。つまり、4〜5千万ドル以上の大型 Lump Sum プロジェクト商談の場合、失注すれば使った費用は回収出来ない。プロポーザル作成作業費用の配分についても Gain/Loss Risk を勘案した監理をしている。かように、ベクテルを始めとする欧米エンジニアリング会社の経営リーダーは利益確保・リスク回避を重視する点が日・韓の会社と は大きく違う。こうした点を踏まえた上での競争力で、千代田・日揮がベクテル・Foster Wheeler ・B&R に並んだ とは言い難い、と観ている。
 
更に、アジア・中近東・アフリカ市場における Projects の Lump Sum Bid Competition では米企業は大きなハンディキャップを負っている。それは、ロッキード事件で日本でも有名になった Foreign Corrupt Practice Act (FCPA) の適用が非常に厳格になされていること。欧州・日本にも似たような法があるが、当局は摘発にはあまり熱心ではない。(業界、特に商社・ゼネコンへの配慮が 行き届いている?) 従って、これらの地域、特に中近東・アジアの国々における Lump Sum Bid Invitation には米企業は非常に慎重で、Bid Invitation に参加するケースをかなり絞っている。これがベクテルが Qatar LNG/Petchem Projects Bid Competition に参加しない一番の理由。”

べクテルにしてもBPにしても一緒に仕事をし た仲間はすべて引退しているが、歳を経るとともに生活水準の違いが次第に大きくなり、がっかりさせられる。原因はT.Hの指摘のとおりコーポレートガバナンの違いということになる。要するに儲からない仕事は捨てるということができるかどうか。日本はできないで、万 歳突撃をして果てる文化なのだ。東芝もシャープも。

コストに関するコーポレートガバナンスの違いはH.Tの分析の通りだろう。ではなぜだめなのか?Kさんは結局終身雇用制とは年功序列で皆が「ゆで ガエル」になっているからではといっている。BBCが毎年1回、著名な学者を招いて行う講演リース・レクチャーの2012年を担当した英国人でハーバード 大の経済史・金融史学者ニーアル・ファーガソンは日本や中国に特徴的な「アクセス制限型」の制度がいけない。これに対しアングロサクソンは「アクセス開放 型」のため米国がいまでも創造性ある沸騰社会である所以。

私はなぜか考えるうちに、引退するCEOが後任のCEOを決める日本の文化が間違いだといった米国の学者の指摘が「なぜ千代田がコスト割れの受注を繰り返 したのか」という質問に答えていると思う。日本を含め世界的には取締役会がCEOを選出することになっているが、その取締役会にだれが次期CEOを推薦す るかといえば日本ではCEOを引退して、取締役会長になる人が推薦するという慣習になっているところがほとんど。社外取締役がいない場合、取締役は前の CEOに指名された負い目があるから、イエスマンとなって取締役会は形骸化し、会長の推薦はそのまま異議なしとなる。そこでなにが起こるかといえば、たま に問題児が出現する。

千代田の場合は創業者が後継CEOを指名する前にガンで急死した。そのとき、なんと会社の業務には無知の陸士出の娘婿がしゃしゃり出てきてCEOになり、 当時、流行の多角化に走り、ゼネコン分野に展開。貴重な社員を無駄使いして本業分野を弱体化。そして後任CEOに研究所しか経験のない男を任命した。この 人は夢見る人で社長室から出てこず、文系専務と理系常務をリモコンして応札価格を切ってアジアのプロジェクトを受注しまくった。結果として2000億円の 穴をあけてしまった。この人は責任とってすぐ辞任したが、その後任に問題の会長は宴会しか芸のない文系を社長に指名した。この人が3代目を社長にすると公 約をしていたからだとだというのがもっぱらの噂。ここでようやく資本を出していた三菱銀行と商事がその巨額の損失で目を覚まし、社外取締役を送り込んで、 プロジェクト経験の豊富な西尾氏をCEOに任命してようやく正常に戻った。

この逸話はCEO選出のメカニズムに瑕疵があると従業員はとんだ災難になるという例だろう。東芝がこれに酷似している。日立とかニッサンはニアミスで危機回避ということでしょう。三菱重工は???

さてこのようにコストに無知な男たちが判断する立場にたつと恐ろしいというだけの例ですが、これはその男を差し替えればなおる。ところが魅力的な商品、 サービス、ビジネスを生み出すマネジメントもっとむずかしい。うまくやっている米国のやり方を学ぶしかないのでは?企業の創造性、買収を含めた新製品の市 場へ の投入などの能力に関しても日本のメーカーは創造性を失ってしまったかのように見える。はたまたはじめからそのようなものはなかったのかという疑問もあ る。新しいものは進化や脳の配線と同じ原理で無作為に今までないアイディアを思いついてはそれを試みているうちにヒットにぶつかるという手法をとる。した がってほとんど屍累々の世界である。そのたまの軍資金が売り上げの10%位ないと続かない。結局利益を削って、売り上げを増すという戦略では決して新商品 は生まれない。

千代田のようなエンジニアリング企業の新技術開発には私が担当していたような顧客にとって魅力的プロセス商品の品揃えと詳細設計の自動化による効率化があ る。新技術開発といっても全く新しいものよりすでにある技術を思いがけない方法で結ぶということを常に考えている必要がある。

もう一つの技術は自身の作業の自動化による設計の高品質化と人件費の節減である。現在のコンピュータでは技術的に自動設計は困難であった。せいぜいCAD を使う配管設計をフィリピンやインドに外注するしか手はなかった。しかしAIが成功しつあるのをみるとエンジニアリングの新技術開発のチャンスがきている ような気がする。すでに米国か英国でだれか手掛けているであろうけれど。3DCAD+AIのシステムを構築し、これにP&IDと完成3D配管図を 沢山見せて機械学習させ自動設計させるという新技術を開発する。3DCADから資材表作成はすでに自動化されている。おなじように現場工事の手順も対応ス プール図作図もAIに機械学習させてスプール制作も支援するなどいろいろある。

雇用制度でもベクテルでは70才まで働けるのに当時日本 では一律60才でチョン。無能でも60才まで遊んで暮らせるという悪しき終身雇用制だったわけといえばそれまで。違いは米国流では仕事の区切りごとに正し く評価されるとい うことか。そういってもまだ正しくない。与志耶劫紀の経験のように文系エリートの仲間うちで甘い評価ができるのだ。やはりドアはあいていないと緊張感がな くなるのだ。

千代田化工でも人事は東大を出ただけではだめで、実力がなければだれも見向きをしないのは欧米と同じだった。米国流の事業部制を採用したこともあるが独立 採算制はついに形式的なものに終わった。プロジェクトマネジメント制は採用したが、事前審査は甘くて、競争が厳しくなると不採算でも無理に受注するという 敢闘精神だけで突き進むのでプロジェクトが頻発して社運を傾けた。まるで旧軍と同じだった。T.H.に、これからグローバル世界で戦わねばならぬ後輩 の日本人のためにベクテルでの経験を本に書くべきだと勧めた。

2016年8月2日(火)、芸大美術館で開催された「びわ湖長浜の観音たち」という展覧会に歩く会の仲間とでかけた。中の一人が仏画を趣味としているのでそれに付き合った後、精養軒屋上のビアガーデンで飲むのが目的であった。参加者は和田、小粥、加畑、榎本、青木。

琵琶湖北岸のほとけといえば2006年に渡岸寺の十一面観音を拝観したことがあるし、2011年には賤ヶ岳に も登った。最近TVで賤ヶ岳の少し木ノ芽峠の紹介番組を観た。源義経主従、新田義貞、道元禅師、本願寺蓮如上人、松尾芭 蕉、数知れない人々がこの峠を越えたという。 いまでも毎年、「蓮如上人御影道中」が行われるという。福井県あらわ市の吉崎別院での蓮如上人御忌(ぎょうき)法要に際して、本山本願寺から上人の御影が 琵琶湖西岸を通って吉崎別院までの約240キロの道程を、一週間かけて歩き。峠にある前川家で休憩するという。

竹生島にむかって突き出している葛龍尾崎の入り江にひっそりとたたずむ隠れ里 菅浦は険しい山に囲まれているため、水運主体の隔絶された集落であったこと から古くから百姓の自治的・地縁的結合による共同組織である惣村が形成され、警察・治安維持・刑事裁判に関わる行為・権限・職務を自分達でおこなう自検断 を行使し、近江国を領有した京極氏や浅井氏の統治を嫌い対立したこともあるという。

2016年11月22日(火)、東京国立博物館で開催されている「平 安の秘仏」展にいつもの歩く会の仲間とでかけた。滋賀の天台宗の古刹・擽野寺(らくやじ)に伝わる大観音とみほとけたちというものであった。平安時代の 10-12世紀にわたる20体の仏像である。なかでも十一面観音菩薩坐像が最大の眼目であった。

ついでに一般展示も初めて見た。かなりの量で疲れる。

本館裏には和式庭園がある。そもそも博物館は寛永寺の本坊だったところでこの庭は本坊の庭であったところだ。池を取り囲んで沢山の由緒ある茶室が移設されている。



東京国立博物館裏庭園

東京国立博物館表には立派なカエデの巨木がありちょうど紅葉で目を楽しませてくれた。



東京国立博物館のカエデ

鑑賞後は上野精養軒で昼食して散会。六義園での紅葉狩りの梯子の提案もあったが、明日の「自由人のエネルギー勉強会」講演の準備のためまっすぐ帰る。

December 18,  2015

Rev. November 22, 2016


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