タイ中央平原の地形と2011年洪水

三重大学生物資源研究科 春山成子教授

2012年6月29日

5年ぶりに西沢氏に誘われてアジア大のゼミにでかけた。ここで三重大の春山成子教授のタイ洪水に関する非常に面白い話を聞かせてもらった。

西沢氏につれら れてアジア大の ゼミに押し掛けたのは5年前も今回も中国人留学生の縁であった。西沢氏は東北地震後、ボランティアをしていて政府の対応を歯がゆく思ったため、かねてから 横須賀選出の議員として応援していた横粂勝仁議員に相談したところ「アジア経済文化フォーラム」を紹介された。専門の廃棄物処理技術の説明と被災地石巻の水産会社が流失した養殖海産物の購入と加工技術指導案内のために、深圳 市、 重慶、成都、青島、栄成市を歴訪するはめになったのだという。そのとき、中国人留学生の受け入れ先紹介をたのまれ、アジア大にコンタクトした。用件が終わって大江 先生から 本ゼミ参加しないかと誘われたのだという。

中国漫遊の印象は成都など中国奥地の都市は電線はすべて地中化されており、道路も片側3車線でとても日本の都市 でこれに匹敵するものはなく、底力を感じた。相互扶助の精神で、次世代のために我々の今出来る協力をするべきとの印象を持ったという。


春山教授は地形学の権威だ。本題のタイのチャオプラヤー川の話の前にアムール川とメコン川の話を伺った。

アムール川

アムール河の汚染が北海道の網走に達しているとか、海の鉄分が不足しているので製鉄で出るスラグを海にすてると海洋資源が増える話などである。

メコン川

チベット高原に源流を発し、中国の雲南省を通り、ミャンマー・ラオス国境、タイ・ラオス国境、カンボジア・ベトナムを通り南シナ海に抜ける。典型的な国際 河川の一つで、数多くの支流がある。ホーチミン市の南に広がるメコン河のデルタではボーリングをして6,000年前の海岸線はどこにあったかなどの研究 をしている。いまでもカンボジアとの国境を越え、プノンペンまで塩水はさかのぼるので昔の海岸はそのあたりだろうと考えている。カンボジアのトンレサップ 湖は昔は海だったのではないかという人もいるが、ここはむかしから淡水湖だった。デルタの住民は塩水につかれば魚の養殖、塩が抜ければ米と臨機応変に対応 している。近年増えた洪水は下流の都市化により流路が狭められたためと思う。ハノイは遠く、地元の実態は無視した政策がとられていると感ずる。上流に中国 が多数のダムを建設したため、川が運ぶ栄養分が減り、下流の生態系が破壊されている。しかし中国は聞く耳を持たない。


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チャオプラヤー川

チャオプラヤー川はタイ国内の大きな河川の一つである。上流にあるナン川とピン川が合流してチャオプ ラヤー川となり、中原を流下し、アユタヤ経 由、バンコックを横切って海にそそぐ。2011年の35年に1回という大洪水でアユタヤに進出した日系企業が大被害をこうむった。チャオプラヤー・デルタ上の発達したバンコックはいまでも地下水汲み上げのために地盤沈下している。 シンハビールが一番水をくみ上げているのではないか。

1942年の洪水ではチャイナ―ト地点の河川水位は+19.3mとなり、ここで自然堤防を溢流氾濫した。1983年のチャイナ―ト地点の河川水位は+ 15.81mとなった。1983年の洪水でバンコックの周辺にはキングズダイクが作られたが50cm高しかなく今回は役に立たなかった。

アユタヤ王朝は自然堤防の背後に位置し、洪水で定期的に冠水する深水稲作地帯が経済を支えた。長茎5mの浮稲が生育していた。しかしチャイナ―トからの灌漑水路が整備されてから洪水に対する備えは忘れられた。

完新世紀中期の海面上昇時の古海岸線はアユタヤ近辺にあった。デルタは今年平均25m前進している。

上流のダムの放流を非難する向きもあるがダム決壊の被害のほうが洪水よりけた違いに大きいので放流は やむを得ない。洪水防止として放流路新設を考えているようだが遊水地方式がいいのではと薦めているという。というのは水田はむしろ洪水があった方が農地は 肥沃になるからである。

私の質問:「徳川幕府は江戸川の水を利根川に付け替えた。まあ放水路を作ったようなもので明治期に渡良瀬遊水地も付け加えた。それでずっと江戸と現在の東京は数百年大洪水を経験していないが、今後も同じことが続くとはいえないだろう。どうしたらよいのか。

回答:絶対に住民を守るという政治姿勢は破たんするだろう。科学的に考えれば米国式の洪水に見舞われるところに住む奴はバカだという態度をとるしかない。いわゆる自己責任。


アジア大は80億円の資金を投じて古い校舎を取り壊し、大きなビルに建て 替え中であった。

ゼミのメンバーの一人で飯島名誉教授の弟子、山寺さんは内閣府の部長さんに昇進していて民主党の大臣共の世話に明け暮れていると苦労話を聞いた。給与カットを嘆いているので民間は20年前に経験したことでだれも同情しないよとアドバイス。

ゼミのメンバーで現在高校の先生をしている関上さんから、日本の先行きが暗いが、日本の教育制度のどこかに問題があるのか教えてくださいといわれた。わたしの 持論は「文 系官僚と文系マネジメントが日本を滅ぼす」に書いた通り、教育というより企業や役所の統治機構に問題があるためでこれは不治の病だ。教育界が 頑張ってもなにも変わらないと非常に悲観的な見解を述べて、彼を失望させた。不治の病とは死んではじめて改革はなされるという認識。

小林先生と大江先生の学問対象はモンゴルとロシアに向かっているという。巨大な中国とうまく付き合うには、その隣人と仲良くするのが上策という考えのようだ。

  July 1, 2012

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