鎌倉広町緑地自然観察グループ

バイオマス成長速度測定

 

グリーンウッド


調査目的

放置林の有効利用を行なうカーボンニュートラルな広葉樹発電を検討するために、鎌倉の都市林となる予定の広町緑地の自然観察の場を借りて里山の生長速度を2004-2006年の2年間かけて測定した。落葉は利用できないので計測しない。エネルギー作物として小枝は材積に含めるものとした。



調査の方法

約10m四方の調査区域内にある樹木の胸高の幹外周を計測し、幹は真円と仮定して胸高直径、DBH (Diameter at Breadth Height) を計算する。樹高Hは仰角と距離から三角法で計算する。

樹木の材積は一般に使われている胸高断面積と樹高の積として計算した材積に胸高係数fを乗じて計算するものとする。山本博一(東大千葉演)によれば「既存の幹材積表は胸高係数は0.45近辺となっているが、これは主幹部のみで、枝部分も含めるには30%程度の枝条率を見込む必要がある。ということはバイオマスの胸高係数は0.64近辺になるということか。

検証のために樹冠部分も含めた胸高係数fを独載頭円錐のフラクタル樹モデルで推算することにした。まず幹も枝もすべて載頭円錐と仮定する。この載頭円錐は必ず2つの枝に分岐し、その分岐する円錐底の面積は幹の円錐頂の面積の1/2の平方根すなわち0.7071倍になり、枝の長さも幹の0.7071倍となるようなフラクタル樹を考える。円錐の先細り度は直径にして1/150とする。胸高1.2mでの直径がDBHが30センチ、高さ3mの載頭円錐(目高の上下の幹容積は等しい)が2つの枝に9回分岐を繰り返すフラクタル樹を考えると10節目の小枝の先端は直径4.8mmとなり、本数は512本になる。この時の樹高Hは9.92mでその姿を2次元の平面に描けば下図のようになる。このときの胸高係数fは0.761となった。この値を木の種類、樹齢にかかわらず一定として樹木の材積を計算することにした。

ちなみに幹の全バイオマスに対する容積率は下グラフのように39.7%である。第4節目の枝まで含めれば88%の容積をしめる。

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載頭円錐ラクタル樹

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載頭円錐ラクタル樹の諸元

こうして計算したそれぞれの樹木の材積に受光面積が調査区域にある百分率を加重して調査区域内の総材積を推算する。測定時期は毎年1月に行なって 胸高胸囲の経時変化を記録し、材積の変化を計算で求める。

用意したマーキング用具
(1) 白色アクリルペンキ・スプレー缶
(2) 番号と目高線罫書きマスキング

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用意した計測用具
(1) 外周計測用2mスティール製巻尺
(2) 距離測定用20mグラスファイバー製巻尺
(3) 仰角測定用六文儀

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調査地区:広町のK16地区の約10m四方で落葉樹中心の二次林を選んだ。針葉樹や常緑広葉樹も少し混じる地域である。

鎌倉広町緑地の地区表示と立枯・倒木・植生分布図

調査面積:145.7m2

調査区域内の樹種と本数:サクラ5本、コナラ7本、イヌビワ4本、スダジイ1本、タブ2本、ヒノキ1本の6種、20本

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測定線と通し番号をマークしたサクラとコナラ

 

2004-2005年の計測結果

番号 樹種 算入率 樹高 H 2004胸高直径 DBH 2005胸高直径 DBH 2006胸高直径 DBH (2005-2004材積差)/2004材積 (2006-2005材積差)/2005材積
- - - m cm cm cm % %
1 サクラ 1.0 14.9 36.5 37.1 38.1 3.0 5.4
2 サクラ 0.9 14.9 34.7 35.2 35.2 2.8 0.2
3 サクラ 1.0 14.9 18.8 18.9 19.2 0.7 3.7
4 イヌビワ 1.0 7.1 15.5 15.9 16.2 4.6 4.9
5 サクラ 0.9 13.1 50.6 51.4 53.0 3.2 6.3
6 サクラ 1.0 7.2 7.5 7.5 7.6 1.7 0.8
7 コナラ 0.9 12.4 31.1 31.3 31.8 1.2 3.7
8 タブ 1.0 10.7 16.2 16.4 16.8 2.4 4.7
9 イヌビワ 1.0 5.0 8.0 8.1 8.2 4.0 3.2
10 イヌビワ 1.0 5.2 7.7 7.8 7.8 3.3 0.8
11 コナラ 1.0 7.7 10.7 10.8 10.9 2.4 3.0
12 コナラ 1.0 7.7 7.0 7.1 7.3 2.7 5.4
13 コナラ 1.0 7.7 6.7 6.7 6.9 1.9 5.7
14 コナラ 1.0 14.5 22.2 22.5 22.7 2.9 1.1
15 シイ 10.1 5.3 18.5 19.0 19.6 5.2 6.5
16 タブ 0.6 9.5 17.0 17.4 17.9 4.5 5.9
17 コナラ 0.5 11.3 21.8 22.1 22.6 2.6 5.0
18 コナラ 0.5 13.5 19.1 19.3 19.3 1.7 0.7
19 イヌビワ 1.0 4.9 6.1 6.2 6.4 3.1 6.2
20 ヒノキ 0.25 11.5 27.1 27.6 28.3 3.8 5.4
  平均値           2.8 4.2

 

樹種別年間成長速度

樹種 2004材積 PI/4*DBH^2*H 2005材積 PI/4*DBH^2*H 2006材積 PI/4*DBH^2*H (2005-2004材積差)/2004材積 (2006-2005材積差)/2005材積
- m3 m3 m3 % %
コナラ 2.44 2.49 2.56 2.0 2.9
サクラ 6.06 6.26 6.51 2.9 4.4
タブ 0.44 0.45 0.48 3.4 5.3
ヒノキ* 0.66 0.69 0.72 3.8 5.4
イヌビワ 0.20 0.21 0.22 4.2 4.3
シイ 0.14 0.15 0.16 5.2 6.5
合計 9.94 10.22 10.64 2.8 4.2

樹種別成長速度では シイ、イヌビワ、ヒノキ、タブ、サクラ、コナラの順である。針葉樹のスヒノキが必ずしも早くなくシイやイヌビワに劣る。コナラが一番遅い。

2006年は日照が多かったせいか、調査地区に隣接する南側のサクラの巨木が倒れて、日照がよくなったためか はたまた測定が2ヶ月遅れたためか全般に成長速度が増した。

 

単位面積当たり平均年間成長速度

樹高は1年では変化しないと仮定すると。

項目 Unit 2004年算入材積 2005年算入材積 2006年算入材積 2005年年間成長速度 2006年年間成長速度
森面積当たり木材容積(円筒モデル) p/4*DBH2*H m3/ha 571.5 587.0 611.2 15.5 24.2
胸高係数 f - 0.761 0.761 0.761    
森面積当たり木材容積(載頭円錐フラクタル樹モデル) m3/ha 434.9 446.7 465.1 11.8 18.4
木材比重 - 0.5 0.5 0.5    
森面積当たり木材重量(50wt.%水分) ton/ha 217.4 223.3 232.5 5.9 9.2
木材含水量 wt. % 50 50 50    
木材灰分含量 wt. % 3 3 3    
有機分中の炭素含量:70mol.%のCellulose(C6H10O5)nと30mol.%のLignin(C18H24O11)nとするとWoodは (C6H9.4O4.6)n wt. % 46.5 46.5 46.5    
森面積当たり炭素重量 ton/ha 47.5 48.8 50.8 1.3 2.0
幹密度 本/ha 1,143 1,143 1,143    
胸高断面積 m2/ha 44.1 45.3 47.2 1.2 1.9

調査地区の樹木の年間成長率は11.8-18.4m3/ha/year、生木の水分含有率を50wt.とすれば5.9-9.2green ton/ha/year、炭素固定量にして1.3-2.0ton/ha/yearとなる。

 

考察

里山林のバイオマス成長速度は東京大学出版会刊、武内和彦他著「里山の環境学」の恒川篤史の論文「6.里地自然を保全するための長期的戦略」の中(P215)によれば2ton/ha/year。 ただしこれは炭素固定量なのか乾燥重量なのか不明。

島根大学生物生産学部の小島健一郎氏によれば、島根県での常緑広葉樹萌芽更新の試験結果によると択伐率50〜90%,回帰年4〜15 年のとき、年平均成長量は14.5〜7.5m3/ha/yearであったと報告されているのでこの範囲に入っている。

Timothy P. McDonald et.al, USDA Forest Serviceによれば成長速度の早いプラタナス、short rotation sycanore(Platanus occidentalis L.)の短伐期の成長速度は14.3 green ton/ha/yearと報告されている。

炭素の燃焼熱=32.8kJ/grとすると一日に固定した太陽エネルギーは年間平均で18kJである。これからから光合成のエネルギー転換効率は0.18%となる。

 

参考データ

1959,1964,1969年と5年毎に撮影の広町緑地を撮影した航空写真をみると、広町界隈の尾根筋特にK10地区は戦争中と戦後も屋根葺き材料採取目的の萱場になっていて、1964年ころまでは空からみるとツルツル坊主に見える。1969年に七地ヶ浜住宅地が開発されてからは二次林が成長を始めているのがみて取れる。1964年はまだモノクロ映画が製作されていた頃である。1969年には全てカラー映画になっている。ちょうど高度成長期にはいる時期である。現在ではこの地区には下の写真のような落葉二次林(主としてコナラ)が再生している。いずれも胸高直径30cm、樹高15m以上ある。

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1964年までは萱場であったK10地区に40年間で再生した落葉二次林 (2004/2撮影)

測定対照のK16地区は1964年頃までは食料増産のために畑になっているのが見て取れる。萱場程のツルツルさは見えないが、周りの森ともちがった空き地となっているように見える。現在残っているサクラの巨木はその畑の縁に当時から存在したようである。このような環境の下でK16地区の畑も1964年以降、放置されたと見てよいだろう。現在胸高直径が30cmに達するコナラは過去40年間にドングリから発芽し、ここまで成長したと考えられる。当時すでにそこに植えられていたサクラは更に成長を続け、直径40cm-50cmまで成長したと考えられる。

 

謝辞

鎌倉市の都市林計画地である広町緑地の自然観察の場を借りて本測定をおこないました。リーダーの山田氏と東大大学院の堀さん、ご指導ありがとうございます。

January 31, 2004

Rev. September 22, 2007


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