インフラ・ビジネス

民主党政権末期ころからインフラ・ビジネスという言葉が新聞・雑誌を賑わすようになった。電力、水、鉄道、港湾といったインフラ(社会基盤)整備事業で、 商社をはじめとする日本企業の海外インフラ事業が、今、好調な伸びを示しているというわけである。

原発

民主党はやけに原発輸出に熱心だったがUAEの原発は韓国勢に取られてしまった。私は原発メーカーが採算をとりながら輸出するのは自由だが、政府が事故保 障をつけるのは絶対反対だ。0.2兆円の売り上げのために、10兆円のリスクを抱え込む愚は考えられない。米国のGEもウエスティングハウスも、米政府も そのような保障を背負い込んでいない。そもそも民間の保険会社は2,000億円程度を限度にしてそれ以上は引き受けない。米国政府は国民を納得させるために 国家補償法で保護している。もし日本政府が外国の電力企業の事故補償するなんてきけば日本国民はノーというだろう。2012/10/31に中国資本が逃げ出したHorizon Nuclear Powerと いう原子力発電会社を日立が850億円で買収するという。事故補償のリスク軽減のために申請が受理されたのちは出資比率を50%以下にするというが仮に 10兆円の補償が生じたら5兆円の責任が生ずる。これはウェスティングハウスを買収した東芝が犯した判断ミス以上の間違いだと感ずる。アレバーMHIはトルコの原発を受注したというがアレバがついていれば、おかしなことにはならないだろう。

日本人のリスク評価能力のレベルは低いという事の例は、原発関連がその典型だ。最近の東芝のWestinghouse買収等数多く見られる。銀行・保険会 社と言ったリスク評価を売り物にしている金融関係ですら海外との差は大きく、これが為にMerchant Bankが育たず2000年初め頃までは国際金融のために構成されるシンジケイトのリーダーになれる日本の銀行・保険会社は殆どなかった。リスク軽減のた めの Commercial Terms をいかにして契約に織り込むかが肝要とベクテルで働いた原氏はいう。

人為的温暖化説は原子力の正当化に利用されただけだ。そういう意味で原発事故の可能性を考えれば、新規原発を建設することは問題外だが、化石燃料が絶れ た場合の最後のバックアップに使える程度には温存するかどうかの判断は苦しい。BWRは封じ込めに劣り、仮にベントフィルターをつけてもうまく作動しない ことも考えられ、想定外になりかねない。しかしPWRは大きく堅牢な格納容器をもっているため、仮にメルトダウンしても封じ込め性能がすぐれている。だか ら天然ガス価格交渉の道具として石炭火力とともにPWRは有効利用できるかもしれない。

上下水道

次は上下水道のようなインフラだが、日本は水は政府直轄事業でローカルの土建会社が図面もなく、闇雲に 道路 を掘り返して仕事しているだけで輸出できる技術を持つ私企業を育てていない。精々できるのは水浄化プラントくらいなものだろう。したがって外国の地方政府 と契約して現地の人間を雇い、リスクヘッジしつつ市街地の道路下の配管 工事する人材も組織もない。どうしてそのような無謀なことを考えたのか理解できない。

パイプライン

「パイプラインはエネルギー輸送コストが一番低い」が国際常識。だから宗谷岬に上陸して北海道を縦断 し、津軽海峡を渡るパイプライ ンが一番安い、ところが日本ではこの常識が通用しない。そこでエクソンなどはサハリンから東京まで海底配管を敷設しようとしたのだが、漁民を説得できない のであきらめてLNGにすることにした。太平洋岸と日本海を結ぶパイプラインは私も関係した帝国石油の国産ガスの古いパイプラインと石油資源開発の新潟− 仙台間ガスパイプラインくらいである。この新潟−仙台間ガスパイプラインは当初は岩船沖ガス田等の国産ガスを運ぶことであったが。ライン運転開始後しばら くして、新潟LNG基地からのガスも運ぶべくラインを繋ぐと言う話であったと思う。この程度が日本のパイプライン。この技術は海外向けのインフラビジネス とするほどの商品価値がゼロ。さすがの日本政府もガスパイプラインをインフラビジネスとは考えていないようだ。

ガ スパイプラインは日本では絶望的だ。成田空港をトップダウンで決めたのだが住民の反乱に会い、いたるところで抵抗に遭遇した。ジェット燃料配管工事もその 一つ。反対派は錦の御旗に安全を掲げる。そうすると政府は、学者を動員して規制をこんなにきつくするから安全だと押し切った。このおかげで国内パイプライ ンはベラボーに高くなった。日本ではガス権益構造が複雑で、これに政・官の思惑が絡み、大きな視点での議論が出来ない。具体的には、東京ガス・大阪ガス等 の大手都市ガス企業と電力会社の利害の衝突、大手都市ガス企業とプロパン業者(地方に多く、地方有力者が絡む)との利害衝突、等々。日本においてはまた地 権が高度に守られている上に細かく分散されている為、長距離パイプラインのように幅は狭いが非常に長い距離に亘って土地を確保するのは事実上困難。公益重 視と言うことで国権が動けば良いが、政官は私権重視の理由もあって動かない。

新潟ー仙台ラインは東日本大震災でも無傷で仙台にガスを送ったことからその価値が見直された。福島県の原発を補完するため に東京ガスが日立港にLNG輸入基地建設し、2015年から稼働させ、ガスを東京湾のパイプラインに連結するとともに内陸部の栃木県真岡市にも送り、神戸 製鋼がここに1.4GWのコンバインドサイクル発電所を2019年までに建設し、電力は東電に売ることになっている。

ドイツはロシアと内陸のパイプラインでつながっていることはルードウィッヒ・シャーフェンのアンモニアプラントを見学したときに気が付き感銘をうけたもの だ。アミンプ ラントで突然フォーミング現象が生じ、急きょアンチフォームエージェント(シリコン油)を注入していた。ロシア側で防錆剤を注入したんだろうと言ってい た。ドイツは最近ではバルト海にパイプラインを敷設してロシアのガスをもってこようとしているし、地中海北岸諸国は島と半島伝いのパイプラインやLNGで アフリカのガスを購入している。トルクメニスタン東部のガスもロシア経由ヨーロッパに送られている。

リスクテイクしてもプロジェクト遂行に踏み切ると言う為には、組織が高いリスク評価能力を持っている事と同 時に Decision Makeする立場にある人が幅広い知識・経験を持っていることが不可欠。日本の政・官・業のリーダーでエネルギービジネスのリスクテークに知識・経験持っ ている人は少ない。

このように世界標準からみれば日本はパイプラインに関しては奇形児のようなもの。構造は原子力と同じ。飛行場はいやだという住民の理由の一つにパイプラインは危険だという意見があると、その説得の仕方として、安全基準を上げた燃料パイプラインら文句を言えないだろうと、お かしな方向にゆく。全て自民党政権のやりかたがいけない。権威主義的で学者をつかって押し込むが学者は経済観念がないから高いものになり、結 局だれもそれを採用できないことになる。

1960年代、米国のパイプライン会社が千代田にやってきてシベリアのガスをウラジオストックまでパイプランで持ってくる計画の説明があった。ブースター コンプレッサー吐出ガスをプロパンで冷やさねばパーマフロスト層がとけてしまうなどと聞いた。この話はそのまま立ち消え。その後エリチン時代ガスプロムの 副社長がやってきてLNGにしてヨーロッパ輸出するという話をした。それはどうかといったことがある。1998年にテヘランの会議に出席したときはロシア と米国の専門家が世界一とも言われヤマルのガスをどうすればよいかと討論したのを聞いたことがある程度。そのときはいずれそういう時代が来るだろうという 程度であった。今回薮から棒にYamalにLNGプラントと聞いて驚いた。福島以後、高値が固定化してプロジェクト、メジロ押しということになってのだろ う。そのうちに熱がさめるのでは?北極海のYamal PeninsulaにLNG基地を建設し、北極海経由LNGを輸出しようとしている。Totalが開発に前向きで、日本商社も輸入とプロジェクトファイナ ンスで前向きなのだろう。そこでTotalがテクニップーJGC にF/Sを発注した。考えてみれば北極圏のパイプラインは 常時ガス温度を零下に維持しないとツンドラがとけてパイプが切断されてしまうため金がかかりLNG の方が安くなるのかもしれない。ロシアは原子力砕氷船もあり、ベーリング海峡経由ノルウェー→日本へのLNG輸送を実験してはいる。Yamal Peninsulaでのガス開発は2006年頃からヨーロッパ向けにPipelineで、という線で主にロシア側が検討していたが、技術的にはともかく、 採算性に疑問があり、先送りされていた。その後日本・中国はかなりの高値でもガスを買う、という傾向が顕著になって来た。2008年頃からTOTALが開 発 に 意欲を示しスタディに参加していた。Pipeline建設・運転が非常に難しい現地状況及び買い手(日本・中国等)事情からLNG案が有利と言う事で本格 的にFSすることになったのか。とは言っても、Shale Gas 開発が進んでいるLNG Plant & Carrier共に建設・運転コストは通常の倍近く掛かることからプロジェクト実現するかどうかは未だ不明。TOTALはAustralian INPEX Project "Go"でかなり自信を持ったようだ。CIF Priceは両者ほぼ同じレベルでは?このレベルでは日本はともかく中国・韓国が買う可能性は低い。地球温暖化のおかげで、北極海の氷が消えたためで経済効果は大である。なんで温暖化が問題なのか。LNGをドンドン燃して温暖化をはかり、北極海を交易の海にすればよい。




道路、鉄道、トンネル

道路、鉄道、トンネルなどの工事を日本の工事会社が海外で行うとき、見えないリスクをとるような契約はすべきではない。日本では役所になきつけば次回からリカバリーできる ように取り計らってくれるが海外、それも中東は1回勝負。砂漠のようにきつい。それにトンネルなどの社会インフラのメンテナンスを管理する理系役人が居ない等、かなり無責任たいせいでとてもグローバルに展開する体制になっていない。

資源開発

次に国際的に石油やガスの資源開発の主体は日本にはINPEX とかJAPEX位しか存在せず、大した力をもっていない。エンジニアリング企業は過去はメジャーオイルの指導を受ける産油国の国営企業から 仕事を受注していた。今後もこれが大きくかわることはないが、韓国の追い上げもあり、容易なことではない。

安倍内閣が日揮のアルジェリア事件後、日本人だけが逃げだすために自衛隊を使えるように法改正するなど といっているが、多国籍の労働者を雇った責任のある企業の日本人だけ逃げ帰るのは無責任である。自分が逃げ出す手段位自分で用意できなければ海外で仕事は できない。国の世話になる気持ちは煩わしいだけではないか?むしろ、日本の労働法を国際水準(非正規雇用はやめすべて有期正規雇用にする)に合わせても らうことだろう。でないと仕事はうまく行かない。日本独特の差別的雇用関係は恨みを買い、テロの温床となる。安倍内閣の法改正の隠れた意図は国民主権を為 政者の権力に移 転しようという邪悪な意図のようにみえる。有期正規雇用は無期正規採用の2倍の賃金率なのだ。

資源国は北アフリカ諸国が崩壊したように政情が不安定で資源供給は不安定になる可能性があ ることは考えておかねばならない。

March 18, 2013

Rev. April  7, 2013


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