経済学の限界、正規有期雇用、新産業育成

千葉工業大学の荻林教授は物理経済学を研究している。教授の研究「マクロ経済システムのモデリングシミュレーションの研究 −エージェントベースアプローチによるマクロ経済システム挙動の解析−」では企業の貯蓄効果を含めると公共投資の乗数はケインズ理論が教える5に対 し1.8と小さくなる。増税の乗数効果はいずれにせよマイナスではあるが、ケインズ理論の-4に対して-0.02と小さい。

1999年1月17日に書いた「最近思うこと」では米国のクルーグマンが1999年ころ提唱していた政策を紹介している。すなわち「日本は出 生率が低下し、移民も受け入れていないため、人口が減りつつあり、未来の生産力が今の生産力より低く、流動性トラップに陥っている可能性が高い。流動性ト ラップ(liquidity trap)から脱出するためには実質金利をマイナスにするインフレを発生させる必要がある。しかし、生産能力より需要が低い状態ではインフレは発生しな い。短期的な金融拡大やケインズ流の赤字国債による政府支出増大もどんなに大規模であってもインフレを発生させる効果はない。日本国民すべてにインフレ期 待をいだかせるしか、流動性トラップから抜け出せない」である。しかし宮沢大蔵大臣、速水日銀総裁は一顧だにしなかった。

さてアベノミックスは浜田元イェール大教授がアドバイザーだから当然このノーベル賞学者の説を安倍首相に進言したのであろう。クルーグマンも、口先だけで イ ンフレ期待がでるので当局がそういう姿勢をみせただけで、インフレ気分がでてきてうまく回転すると当時いっていたが、いまのところクルーグマン予想のよう に動いている。平安時代に陰陽師だった安倍清明(なぜか名字も同じ)のお祓いみたいなもので、なんとなく先行きに不安を抱えていた日本人をのせる効果があったのだろう。さて問題はそうしてインフレがすすみはじめたときすでに市場にでまわっている過剰流動性を止める方法がない。ようするにブレーキがない問題 をどうするかだ。

2013/3/13の朝日に内山節という哲学者が指摘していたが、かっての経済では実経済にほぼ見合う貨幣が市場に出回ってしまっていたので、貨幣量を制 御することによってインフレは制御できた。しかしいまは貨幣の供給しすぎで実経済は糠に釘で反応しない。単に株価があがり、高くなり過ぎていた為替レートがゆりも どしたに過ぎない。

なぜこうなったかというと内山氏は経済学の創始者アダムスミスが採用せざるを得なかった決定に起因するという。すなわち市場で交換される「交換価値」を計 測の物差しにしたのが間違いであった。人間にとって使ったときの価値、すなわち「使用価値」を計測の物差しにしなかったことがまちがいであった。なぜスミ スが交換価値を選んだかというと使用価値には主観がはいるから計測不能と考えたからである。したがって間違った経済学から出てくる財政政策も金融政策も無 効となっている。唯一有効なのは非正規採用に制限をかけて正規採用せざるをえないように企業を誘導することだという。

私は欧米企業をすべて知っているわけではないが、確かにベクテルを含め、資源開発企業は全て正規採用だ。受注量にフレキシブルに対応するためには有期採用で調整 している。そして有期採用のほうが賃金レートは高い。私も最近ノルウェーの企業と有期契約したが、通常のレートの2倍以上である。

日本の景気も欧米流の直接雇用制度(正規採用)を採用しないと若者は貧しいままで日本経済はテイクオフしないとおもう。もたもたしていると株と土 地のバブルだけに終わることになってし まう。とはいえ現在の日本の企業経営者は中国や韓国で製造できる商品を同程度のコストで作ることしか能力がないからそのような規制には反対するだろう。一 流企業で余裕のあるところはボーナス積み増しでご祝儀の協力をしたが、一過性である。内山氏の提案も空しく終わるだろう。雇用確保の王道は中国にも生産で きない魅力的な商品を開発することだろうが、経営者が想像もできないことは奨励され ないし必要な人材と資金が投入されないから企業組織は創造すらできない。

残るは日本に存在しない新しい産業をおこすことだ。たとえば、地下1000−4,000mにある乾燥した高温岩体に穴を2本堀り、その間を 高圧水で破砕し連結する。そして一方から水を注入するともう一方から温水がでてくる。この熱でバイナリー発電するという産業を育てる。そして排水は川に捨 てず、再注入するため公害は一切発生しない。そして冷水塔をヒートシンクにせず、空冷式にすれば、湯気もでず、ビジュアル公害もでないから国立公園内に建設 しても何ら問題ない。このような新規産業を可能にするために役人が旗を振るとかえって阻害要因になる。規制緩和すなわち国立公園法を改訂る方向が望ましい。

あとは海流発電も大きなポテンシャルがある。それから島の周辺の海域での風車発電も組み合わせる。小笠原から直流送電で送電するより、電力をアンモニア燃 料に変換して船で運ぶことも考えられる。原子力はいくら規制委員会が頑張っても事故をゼロにできない。ならば人の住まない小笠原諸島の無人島に原子炉をおき、発電 +水電解ないし、熱化学反応で水素を製造し、これをアンモニア燃料に変換することだって可能である。放射性廃棄物も無人島に埋めてしまう。ようは工夫次第。

  March 13, 2013

Rev. March 14, 2013


トップページへ