1999年6月発行 日本プロジェクトマネジメント・フォーラム

JPMFジャーナル 第2号

特集:プロジェクトマネジメントシンポジウム'99

E トラック(エンジニアリング・建設)

コントラクタのプログラムマネジメント

グリーンウッド

複数のプロジェクトを有機的にまとめて管理して、より大きな効果を引出すことをプログラム管理といいます。

プラント・マーケットの需給バランスが供給過剰に傾きますと、コントラクタが保有する資源の稼働率を下げないために価格を下げるか、競争緩和のためにコントラクタ間でアライアンスをするか、受注減に甘んじ、コントラクタの当該分野での資源の削減で対処するかという決定を下さなければなりません。

当初はコスト低減策に奔走します。しかしコストが無限に下がるということはありえません。いずれ限界に達します。この限界値(スレッショールド値)はプロジェクトに関係する人、組織すなわちステークホルダーの能力や置かれた環境によって異なります。また当事者が明示できる形でその限界値を知っているわけでもありません。プロジェクトの進展に伴い、次第に顕在化してくるものです。価格の低下傾向が止まらなく、契約額がこのスレッショールド値より下がるとコストオーバーランのリスクが高まります。

プログラム管理とはスレッショールド値低減の努力を継続しつつ、スレッショールド値下げ止まり傾向を早期に発見し、マーケット価格追従行動からいち早く離脱し、自らの当該分野の資源管理に重点を移すなどの行動をさします。

プロジェクトを受注し、実施段階に入りますと、プロジェクトマネジャーはプロジェクトの成果物の品質、スケジュールを保ちながらプロジェクト・コストが契約金額に収まるように行動しなければなりません。

調達費削減は最大の効果が期待できるわけですから、プロジェクト単位ではなく、プログラム単位で工夫する必要があります。簡潔で変更のない仕様の用意とその早期確定が重要となります。調達担当者はコストを下げるために協調的プライチェーンの構築、すなわち品質を確保しながらコストをさげるための新しい契約形態を創造しなければなりません。

工事費削減が、プロジェクト・コスト削減に2番目に有効な方法です。工法が要求する機器、資材、設計図、労務者、建機、工具、足場の現場到着時間をジャストインタイム(JIT)で達成するエンジニアリングと調達が重要になります。JIT工法では建設現場で採用すべき最適工法を決めて、この工法に沿った機器、資材、設計図の現場到着時間を達成するエンジニアリングと調達を実施することです。

エンジニアリングコストは工事費より小さく、これを節約してもコスト低減策としてはそう有効ではありません。エンジニアリングの品質が低いとダウンダウンストリームの調達や工事でのリスクが増え、かえってコストがかかります。多少エンジニアリングコストがかかっても、エンジニアリングの優先的確定によるダウンダウンストリームの混乱の防止こそが重要です。

受注価格がスレッショールド値を下まわったことが見え始めるのに少なくとも2年かかります。この間、コスト削減策がプログラム管理の基本方針となり、マーケット離脱の方針が出るのに時間がかかりますので、受注金額のオーバーシュートが生じます。この制御理論でいう無駄時間に起因する振動現象は世界のプラントマーケットで約10年サイクルで繰り返されてきたことは皆様もご存知のとおりです。スレッショールド値の早期発見と対応処置をとることがいかに難しいかを示しております。

「見えないリスクやボトルネックを発見できるプロジェクトマネジャーの能力こそプロジェクト成功の秘訣である」などという言葉がありますが、プログラムマネジャーにこそ必要とされる能力です。この言葉は真理ですが、危機管理を個人の能力に置くことはシステムとして脆弱です。スレッショールド値の早期発見と対応はプログラムマネジメントシステムに制度として組み込んでおく必要があります。


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