読書録

シリアル番号 998

書名

マクロエコノミックス 上下

著者

ジェフリー・サックス、フィリップ・ラレーン

出版社

日本評論社

ジャンル

経済学

発行日

1996/6/10第1刷

購入日

2008/12/31

評価

原題:Macroeconomics in the Global Economy by Jeffrey D. Sachs and Felipe Larrain B.

息子の蔵書

米国の経済危機が日本経済に深刻な影響をもたらしたのを見て少し体系的に学ぼうという気になって手に取る。内容はR・ドーンブッシュ、S・フィッシャーの「マクロ経済学 上」と同じ。

一国内のマクロ経済を学んでも国際関係が入ると間違った理解になる。本書はそのような誤解がないように配慮された教科書である。

たとえば日本の経常収支の黒字は日本の不公正な貿易観光の結果ではなく、(高度成長期にしなしば日本車の打ちこわしなどが行われた)国民貯蓄が国内投資に比して高水準にあることを示している。裏返せば米国の経常収支の赤字は国民貯蓄が国内投資に比して低水準にあることを示している。米国人は借金して、または間接的に証券を売った金で消費しまくったのである。証券を買った人が寄付をした形だ。結果として2008年の経済危機が発生した。日本はこの旺盛な米国人の消費意欲に付け込んで売りまくったわけである 。

本書のもう一つの知見は円高は国際資本フローに起因すというより国内の金融政策に強く影響されるということ。

2008年の急激な円高は米国の金融崩壊で資金難におちいった外国企業が日本株を売ってドルに変えているからだとテレビ解説者が説明しているが本当か? 日本株を売るから株が下落し、株を売って得た円でドルを買うのだからドル高になるのではないか?論理が逆ではないか。それから日本が保有する米国債の保有高は2004年をピークに次第に下がり、代わりに中国が尻上がりに増えている。これはマクロ経済学で説明できるのか?

第12章 閉鎖経済におけるマクロ経済政策と産出量の決定

ジョン・ヒックスが1937年に開発したIS=LMモデルで解説。IS(投資investmentー貯蓄saving)曲線は縦軸に利子率i、横軸に総需要Q=消費C+投資Iをとったとき右下がりの曲線。LM(貨幣需要=貨幣供給)曲線は所与のマネーサプライMと物価水準Pの比=M/Pのとき、縦軸に利子率i、横軸に総需要Qをとったとき右上がりの曲線になる。

第13章 開放経済におけるマクロ経済政策:固定為替レートのケース

ここで1960年代に考案されたマンデル=フレミング・モデルが導入される。資本規制がないと資本フローの速さは貿易フローの速さより早いので国内利子率と外国利子率は等しくなる。そこでIS=LMモデルに資本移動(CM)曲線を加えてIS=LM=CMフレームワークとした。

第14章 開放経済におけるマクロ経済政策:変動為替レートのケース

IS=LM=CMフレームワークを使って解説。 これによれば2008年の急激な円高は外国資本が日本株を売ってドルに変えているからだというのは因果関係が逆である。実態は米国が金融崩壊をうけて金融拡大政策をとり 、金利を下げたにもかかわらず、日銀が即金利を下げなかったため、米ドルレートが減価し、円レートは増価した。ここに目をつけて米企業が不足するドルを補給するためにやむを得ずに日本株を売っていると説明したほうがよさそう。こうして日本の総需要(総所得)は減少したのだ。米国が近隣窮乏化政策をとったにもかかわらず日銀の 白川総裁の動きが遅いため生じたことだ。米大統領がオバマに代わり、積極財政政策を同時に実施してくれれば、日本の苦境は緩和されるのだが、さてどうか。

このように一国の経済政策は他国に波及するので政策協調は必須となる。このときゲームの理論に従いナッシュ均衡を採用する。

Rev. January 7, 2009


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