読書録

シリアル番号 840

書名

シルクロードと唐帝国

著者

森安孝夫

出版社

講談社

ジャンル

歴史

発行日

2007/2/16第1刷

購入日

2007/2/21

評価

興亡の世界史05

朝日新聞の書評を読んで。

かねてよりモンゴル帝国という開かれた世界国家に興味を持って歴史書を読んできたのでこの本もその系統に属すると判断して買い求める。

著者はユーロ・セントリズム(西洋中心主義)やシノ・セントリズム(中華主義)のいずれも大きな意味で民族主義であるため、いずれにも組しないという立場をとる。古い時代の歴史の原資料は失われているため理科系的歴史学をめざしても歴史は研究できない。そこで文科的歴史学の手法、すなわち欠けている資料を学問的良心を堅持しつつ推論を行うという立場をとる。推論を自由に馳せるのが歴史小説である。西尾幹二の書いた「国民の歴史」はシノ・セントリズムとヨーロ・セントリズムを排しているところは著者と同じスタンスだが、戦前の日本軍国主義を反省する立場を「自虐史観」と批判し、問答無用の愛国心を育てるという政治目的を持って活動している勢力と結びついているので文科的歴史学とは言えないと指摘している。

著者は「自虐史観」は明治以降ユーロ・セントリズムを盲信して世界史観を広めた歴代の日本のインテリと高校世界史教科書の指導要領を変えずにこれを錦の御旗に奉じる検定官にあると弾劾する。

西洋は船で世界の通商を担うまではユーラシアの草原地帯が通商の中心であり、馬は軍事覇権の道具となった。このような観点から世界史を見ると八段階に分けられる。

農業革命(第一次農業革命) 18,000前より
四大文明の登場(第二次農業革命) 5,500前より
鉄器革命(第三次農業革命) 4,000前より
遊牧騎馬民族 3,000前より
中央ユーラシア型国家優勢時代(征服王朝) 1,000前より
火薬革命と海路によるグローバル化 500前より
産業革命と鉄道(外燃機関) 200前より
自動車と航空機(内燃機関) 100前より

ユーラシアの草原は馬に乗った軍事力がもっとも優れ、軍事国家はつねに遊牧騎馬民族がつくった。 以上は前置き。著者はソグド人から書き起こす。 彼らの発祥の地はアラル海に流れ込むアム河とシル河にはさまれたソグディアナで現在のサマルカンドのあたり。(現ウズベキスタンと現カザフスタン)人種的にはコーカソイド。

そして紀元589年に隋が中国全土を統一し、紀元623に唐という国がソグド人の助けで形をあらわにしてくる。唐という国は決して単一民族が造った国ではなく、多言語でかつ北から民族移動してきた遊牧民が建国した 国なのである。 漢民族の作った漢文化に北の遊牧文化、西方の仏教文化・イラン文化が交じり合って唐文化が成立した。ただ漢民族にとって都合の悪い歴史は常に書き換えられてきた。

1,000前に モンゴル民族と色目人が入り込んで元朝ができた。征服王朝の完成がモンゴル帝国でその継承国家がティムール帝国、オスマン帝国、ムガール帝国、ロシア帝国である。

最後が満州族の大清帝国である。チャイナドレスは満州族の服装で、北京語も満州族が話した中国語である。

ところでシルクロードの語源はドイツ人地理学者のリヒトホーフェンの造語ザイデンシュトラーセンの英訳だという。

500前、 西洋が海路を開発したため、相対的に陸路の重要性は沈下した。



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