シリアル番号 | 751 |
書名 |
物理学者、ウォール街を往く |
著者 |
エマニュエル・ダーマン |
出版社 |
東洋経済新報社 |
ジャンル |
サイエンス、金融工学 |
発行日 |
2005/12/22 |
購入日 |
2006/2/5 |
評価 |
優 |
原題:My Life as a Quant Reflection on Physica and Finance by Emanuel Derman
2006/2/5付け日経でコラムニストの西岡幸一氏の書評を読んで即日、購入。 著者と業界の内面をさらけだした貴重な記録である。
著者はコロンビア大学で理論物理学のPhD.を取得後、素粒子物理学の研究をしていたがベル研に移り、失望してゴールドマン・サックスに転籍。ブラック=ダーマン=カーニ局所モデル、ダーマン=カーニ局所ボラティリティー・モデルの共同開発をした。現在はコロンビア大学金融工学のプログラム・ディレクターである。
なかでも1997年のノーベル賞の対象となった1973年のオプション評価式のブラック=ショールズ=マートンモデルに貢献したフィッシャー・ブラックがゴールドマン・サックスにいて、彼との共同研究を通じて知ったフィッシャー・ブラックの 感情に動かされることのないリアリストという人物像の描写は印象深い。 フィッシャー・ブラックはしかし、1995に咽頭癌で亡くなって遅すぎたノーベル賞はもらえなかった。
ゴールドマン・サックスからソロモン・ブラザーズに移籍してその企業文化に大きな差異が多いことに気がつく。その比較は;
ゴールドマン・サックス |
ソロモン・ブラザーズ |
|
企業の所有権 | 個人所有のパートナー・シップ企業(株式非公開企業)従業員7,000人、パートナー70人 | 上場企業 |
長期的な収益に対する感性 | 日常の監督者であるパートナーが流動性のある株式を所有していないために企業の残余価値でるため、短い目で貪欲ではなく長い目で貪欲 | 短い目で貪欲で、総ては社員の自分のために行動する |
社内政治 | 関心ない | 熱心 |
共同作業 | 熱心 | 無関心 |
戦う相手 | 競争企業 | 同僚 |
時間 | 時間厳守 | 個人の勝手で遅れる |
職場の雰囲気 | 快適 | 辛い |
プログラム | 同じ機能を持ったプログラムは共有する | 同じ機能を持ったプログラムでも各人が個別に作る |
派閥 | なし | 有り特にジョン・メリウェザー率いる裁定取引グループは他から隔絶した特権階級を構成していた。 |
人材 | クリントン政権の財務長官になるボブ・ルービンがパートナー。1984年ルービンがブラック=ショールズ=マートンモデルの一人フィッシャー・ブラックをMITより引き抜く 。ボブ・ルービンは後にシティグループの経営執行委員会会長となる。 | 2人のノーベル経済学賞学者マイロン・ショールズとロバート・マートンがいた。彼らはジョン・メリウェザーが設立したロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)に移籍する |
退職 | 退職希望者は自由に他社の面接を受けられる | 退職希望者が他社の面接を受ていることが発覚すれば即、解雇。 |
退職者の扱い | 退職者が過去に書いた有用なレポートを印刷配布するとき退職者の著者名はそのまま残す | 退職者が過去に書いた有用なレポートを印刷配布するときに退職者の著者名を削除して印刷し直す(オーエル的歴史の書き換え) |
企業の永続性 | ルービンが去った後、株式公開企業となる | シティーグループに合併 |
著者はゴールドマン・サックスに舞い戻り、最後は金融工学プログラムの所長としてコロンビア大学に戻る。
2月に購入して完読するまでに5ヶ月かかった。この間35冊の別の本を読んだ。
Rev. July 27, 2006