読書録

シリアル番号 615

書名

マクナマラ回顧録 ベトナムの悲劇と教訓

著者

ロバート・S・マクナマラ

出版社

共同通信社

ジャンル

歴史

発行日

1997/5/28第1刷

購入日

2003/12/22

評価

鎌倉図書館蔵。

原題:In Retrospect by Robert S. McNamara

最近、アルテ・フランス製作のCIAに関するTV番組をみていかに米大統領が間違いをおかしてきたかということをCIA内部の人間が告白するのを見、ジョンソン副大統領がケネディー暗殺の黒幕だったとの告発本も米国で出ていると聞きこの回顧録を読む気になった。その本とは"Blood, Money & Power: How L. B. J. Killed J. F. K." by Barr McClellanであり、まだ翻訳本はでていない。

マクナマラはフォード社長時代、ケネディーに乞われて国防長官に就任し、ケネディー暗殺後もベトナム戦争を指揮するが、次第にジョンソン大統領との亀裂が深まり辞任、以後世銀の総裁になって世界の貧富の格差是正に尽力した人である。

この本をよむとまだ駆け出しの頃のケネディー大統領の就任、キューバ事件、フルシチョフそしてベトナムの深みにはまってゆく米国を横目でみていた若き頃の自分を思い出す。

それにしてもマクナマラがベトナムの民族統一の動きを歴史的にみれば間違っていたドミノ理論という当時米国で一般的だった考えに流され、次第に泥沼に入っていった過程を正直で公平な書き方で書いていて読んでいて気持ちがいい。自分が最下位とはいえ経営の一翼を担っていた時期の回顧録をこのように書けたらと思う。1995年にこの本が出版された時、ニューヨークタイムズが懺悔本を今時書いたといってマクナマラを罵倒する社説を書いたが、他紙からそういうニューヨークタイムズ紙が先頭にたってドミノ理論をブチまくっていたではないかと指摘され大恥をかいたことでも有名となる本である。ブッシュ氏がイラクに深入りしてゆくのを見るとこの本を読んでいないなと感ずる。

ジョンソン大統領はベトナム戦争に深入りしたなどの失敗もあるが公民権や選挙権では功績が大きい。テキサスの牧場からワシントンまでレディー・バードと黒人コックのゼファーの3人で車で帰る時、レディー・バードがトイレに行きたいととあるガソリンスタンドで止まったのちしばらくしてこのゼファーが「道端に停車してほしい」という。「なぜあのガソリンスタンドで一緒にトイレに行かなかったのか」ときくと、「あのガソリンスタンドは黒人が使えないのですよ」とゼファーが言ったという。

成功の歴史は語られるが、失敗の歴史は書かれない。当事者が沈黙を守るからである。マクナマラの本書は例外があることのなによりの好例である。このような勇気のある人が出ればこれから学ぶ人もでて歴史は多少ともよい方に向かうのだろうか。

息子の蔵書に2004/8/10第7刷


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