シリアル番号 | 1258 |
書名 |
ギリシア人の物語 I 民主制のはじまり |
著者 |
塩野七生 |
出版社 |
新潮社 |
ジャンル |
歴史 |
発行日 |
2015/12/20 |
購入日 |
2015/12/25 |
評価 |
優 |
テミストクレスの存在そのものが、感嘆しないではいられないくらいの驚異であった。
中でも特に、必要となるや必ず発揮された、たぐいまれなる信念の強さ。
これまた、機に応じて提示された、天才的と言ってよい独創性。
彼の知力たるや、機敏でいてしなやかで、学問で得た知識からも、経験で得た蓄積からも自由であり、その洞察力は鋭くかつ深く、一見しただけで状況を完全に 把握し、狡猾といってよいやり方でも迷わずに実行に移すことによって、今現在のみでなく、将来的にも有効な解決策を講ずることができたのである。
彼が自ら関与していた場合は、実行に移されるあらゆる行為の意味するところを正確に知っていたし、それを他の人々にも明快に解き明かす能力も持っていた。
彼自身では関与していなかった場合でも、彼の下す状況への判断とそれへの対応策が、誤ったことはなかった。
とりわけ優れていたのは、他の人が想像もしない前にすでに、将来起こりうる事態での利益と不利益の双方を、正確に見透していた先見性である。
彼の洞察力は、今現在に留まらず、遠い将来まで見透す力までも持っていたのだった。
テミストクレスとは、強靭な天賦の才に恵まれた人物であった、と言うしかなく、集中力や瞬発力では他に類を見ない力を発揮し、障害に突き当ったときには瞬 時に解決策を見出す才能だけでも、まことに驚異的とするしかない人物であった。