読書録

シリアル番号 1258

書名

ギリシア人の物語 I 民主制のはじまり

著者

塩野七生

出版社

新潮社

ジャンル

歴史

発行日

2015/12/20

購入日

2015/12/25

評価



少し迷ったが、正月休みに読もうと、求める。

元旦から少し読んだが、いきなりリクルゴスが作ったスパルタの成功と失敗の経緯だ。なにか日本の栄光と挫折とダブルイメージに読めた。直前に「コネクトーム」をよんでいたの でその原因は欠陥脳(文系脳)をもった指導層に原因があるのではないかと思い至る。

塩野女史のギリシア物語りを読んで私を含め日本の社会はかってのギリシアの民主主義を完全にご誤解していると思った。いわばポリスの市民は全員が現代の企 業の経営者に相当する。その企業には社員として農奴や奴隷がいた。侵略者がきたら社長みずから武器を取って自ら兵士になって戦う。ただ戦争となれば一糸乱 れぬ指揮命令系統は論理的必然。1年の期限を切ってもっとも有能な個人をリーダーにして戦う。すなわち税金は自らの血で支払うという過酷なものなのだ。

塩野の物語はツキジデスのヒストリアをたたき台にしているというがアテネとスパルタがクセルクセス率いる強敵ペルシャ軍をマラトン、テルモプュレー、アル テミシオン、プラタイヤ、サラミスで撃破した第一次ペルシャ戦争がはじまったのは紀元前490年。その要となったアテネの英雄テミストクレスとスパルタのパウサニアスを中心に描く。これは日本の歴史書 に出てくる英雄豪傑も顔なしの激しさで、こういう話を読んで育つ欧米の人々のバックボーンになっていると感ずる。道理で日本では人材が枯渇するわけだ。

なかでもスパルタの王レオニダスがテルモピュレーで300人の兵だけで20万のペルシャの軍を3日間とどめたのち全滅した故事は印象深い。

巻末に塩野はツキジデスのテミストクレス評を紹介している。

テミストクレスの存在そのものが、感嘆しないではいられないくらいの驚異であった。
中でも特に、必要となるや必ず発揮された、たぐいまれなる信念の強さ。
これまた、機に応じて提示された、天才的と言ってよい独創性。
彼の知力たるや、機敏でいてしなやかで、学問で得た知識からも、経験で得た蓄積からも自由であり、その洞察力は鋭くかつ深く、一見しただけで状況を完全に 把握し、狡猾といってよいやり方でも迷わずに実行に移すことによって、今現在のみでなく、将来的にも有効な解決策を講ずることができたのである。
彼が自ら関与していた場合は、実行に移されるあらゆる行為の意味するところを正確に知っていたし、それを他の人々にも明快に解き明かす能力も持っていた。
彼自身では関与していなかった場合でも、彼の下す状況への判断とそれへの対応策が、誤ったことはなかった。
とりわけ優れていたのは、他の人が想像もしない前にすでに、将来起こりうる事態での利益と不利益の双方を、正確に見透していた先見性である。
彼の洞察力は、今現在に留まらず、遠い将来まで見透す力までも持っていたのだった。
テミストクレスとは、強靭な天賦の才に恵まれた人物であった、と言うしかなく、集中力や瞬発力では他に類を見ない力を発揮し、障害に突き当ったときには瞬 時に解決策を見出す才能だけでも、まことに驚異的とするしかない人物であった。

Rev. July 27, 2016


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