読書録

シリアル番号 1254

書名

生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像

著者

中沢弘基

出版社

講談社

ジャンル

進化論

発行日

2014/5/20第1刷
2014/6/23第1刷

購入日

2015/11/27

評価



友人の倉見からこれはいい本だ、読めともらった。

著者は長野高校11期の東北大教授だから長野高校2年後輩。物質・材料研究機構名誉フェロー、元東北大教授。生命誕生のなぞに挑む研究を開始したのが研究者生命の最後であたっため、成果が出るころは引退に追い込まれて、研究は後輩たちに引き継がれている。

生命の誕生のなぞに科学の正道から挑んだ仮説とその実験的証明の記録から構成される。生命誕生は原始地球史の必然でうまれるべくして誕生したという説であ る。地球史上の事件により軽元素から有機分子が生成し、環境圧力と自然選択により生き延び進化したという理論。以下時系列で説明。

46億年前:微惑星の集積で地球が創生。凝集エネルギーで溶融、マグマオーシャンの熱で大気は水素を失い、酸化的大気(窒素、水蒸気、二酸化炭素)となる。

43億年前:温度が下がって海洋が出現。地球構造はその分複雑になってエントロピーは低下

40億年前:地球放熱のためのマントル対流で海底プレートが海嶺で発生し、海溝からマントルに沈み込むというプレートテクトニクスが機能しはじめ、地球内部の熱を表面に運ぶとともに地球構造はより複雑になり、秩序化した

40-38億年前:太陽系の軌道に乱れが生じ、軌道を外れた小惑星やその破砕物が隕石となって地球に降り注ぎ、地球全表面を覆っていた海洋に落下した。結 果大気と海洋は激しく化学反応を起こした。このとき多種多量の有機分子が創生された。上空で生成した有機分子は雨とともに海洋に回帰し、揮発性有機分子と 非水溶性有機分子は、海面上にでて酸化的大気と強い紫外線に曝され、酸化・分解した。親水性の「生物有機分子」だけがサバイバルして粘土鉱物に吸着、沈殿 して海洋堆積物中に埋没された。埋没した「生物有機分子」は堆積物の「続成作用」によって圧密・昇温環境にさらされ、脱水重合して高分子化してサバイバル した。海洋堆積層の一部は島弧の付加体となり沈み込み帯(サブダクション帯)を経てマントル内部に沈み込む。堆積層に含まれていた高分子は熱水環境では分 解されてしまうが「小胞」を形成して内部に退避した高分子はサバイバルした。小胞の素材ははじめはシリカ系だが次第に有機膜に代わった。小胞は生死のある 「個体」の成立を意味する。「個体」は小胞同志の融合によって他の高分子を取り込み、エントロピーを小さく保つとともに取り込んだタンパク質の片鱗の触媒 作用で重合し、巨大分子化を果たした。こうして代謝機能を獲得した「個体」は熱力学第二法則の制約を逃れて生きながらえた。これを「無遺伝子生命体」とい う。

38-37億年前:「無遺伝子生命体」が小胞融合によって核酸塩基や核酸の「片鱗」を取り込み、RNA/DNAを形成し、自己複製機能を獲得し、同種を増幅して「種」を創出した。代謝機能と自己複製機能を備えた「個体」とはすなわち「生命誕生」だ。

27億年前:全マントルの熱対流が始まったことを契機としてシアノバクテリアが浅海環境に進出して増殖し、「適応放散」の端緒を開いた。そして地球大気は酸素を含むように進化。以後遺伝子複製の誤りにより遺伝子多様化が進み、地球軽元素の総エントロピーを下げた。

Rev. December 13, 2015


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