読書録

シリアル番号 1215

書名

トップシークレット・アメリカ

著者

ディナ・プリースト、ウィリアム・アーキン

出版社

草思社

ジャンル

政治学・地政学・行政学

発行日

2013/10/29第1刷

購入日

2014/12/13

評価



原題:Top Secret America The Rise of The New American Security State by Dana Priest and William M. Arkin

鎌倉図書館蔵

アニー・ジェイコブセンが書いた「エリア51」は原爆開発とその後の冷戦時代の軍の諜報活動や秘密兵器開発の物語だったがこのワシントンポストの女性記者はアルカイダの2001/9/11以降の米国の対テロ秘密組織の告発報告書だ。

秘密は有資格者とセグメント化によって守られる。セグメント化とはタコツボ化で必要なところに情報は流れず死蔵される。異なる機関間での情報の流れも共有 もない。そもそも大量破壊兵器がイラクにあるという偽情報をつかんだ情報機関のミスリードでブッシュはイラク戦争をはじめてしまったのであり、オバマに なっても パキスタンで空爆の米軍司令官は空爆後、ターゲットがたき火している映像が情報部止まりで、司令官はそんな映像があることすら知らなかったという。こうい う無 駄はあらゆるところにある。最近も捕虜の拷問で何らの役に立つ情報は得られなかったということも分かっている。この他にも9/11の計画をCIAはつかん でいたが、上には報告しなかった。とか沢山ある。

9/11数日後急遽承認された 480兆円と3週間後に同額が承認された巨額の予算は無駄に使われ消えてゆく。人員を使って集めた情報は有効につかわれずに死蔵される。こうして膨大な無駄がおこな われているが、それすら米国民は知らされていない。米国が弱体化するわけだ。

アフガンで、イラクで、シリアで米国が泥沼に落ち込んだように見えるのもこの巨大な情報機関と軍の機能不全に由来するという。金は下請け民間企業の情報員と傭兵に吸い取られて消えてゆく。

ブッシュが新設した国家情報長官は企業のCEOではなく、権限のある委員会の委員長のようなものとして既存情報組織であるCIA(中央情報局)もDIA (国防情報局)の官僚が法案を作成したのでCIA、DIA、NSA(国家安全保障局)、NGA(国家地球空間情報局)、NRO(国家偵察局)、FBI(連 邦捜査局)、アメリカ北方軍、軍、NASA(アメリカ航空宇宙局)、FEMA(連邦緊急事態管理庁)は完全独立組織のままだ。

アメリカ北方軍は通信システムや送電システムが破壊された時にそなえワイオミング州ノF・Eウォーレン空軍基地内に特殊18輪大型トレーラートラック6両 を常時待機。これは「移動式合同指令センター」とよばれ、ワシントンが破壊されたときに核ミサイルによる報復攻撃をできるようにしている。

遠隔操縦が働かなくなる事態にそなえ、自動帰還装置付きの無人機の飛行がメキシコ国境監視に使われている。これは越境者監視のため。しかし次の9/11は無人機が使われるだろう。

軍が相手だった最新の諜報機器、LIアイデンティティー・ソリューションズは指紋スキャナー、FLIRシステムズは暗視装置、監視カメラ装置、顔認識システム、車のナンバープレート読み取り装置を警察に売り込んでいる。

1974年制定のプライバシー法があったが、2001年に制定された愛国法で個人の情報がFBIの巨大なサーバーに保管されるようになった。

米議会上院の諜報委員会が2014/12/9米政府の諜報機関CIAがテロ容疑者らを米国外で尋問する際、水攻めや長時間の起立、食事制限、睡眠妨害など の拷問をしたにもかかわらず議会や大統領に対してしばしばウソもついていた。また組織が無能なのでテロ対策にほとんど成果を出せなかったと指摘する報告書 を発表した本書と同じ趣旨。

軍人は名誉は与えられるが、薄給である。トップシークレットを扱う86万人(内26万人は民間企業)の有資格者は全て隠密だし、NSAなどは数学者が多く、教育程度も高く当然給与は高い。

究極の機密文書保管施設は1060年代に造られた核シェルターの中にある。ペンシルバニア州ボイヤーズにある石灰岩の廃坑の中である。

民間企業でもっとも成功しているのはジェネラル・ダイナミックス社。昔は造船会社だったがいまでは情報会社。売上高1兆円。ブーズ・アレン・ハミルトン社 は経営コンサルタントだが、政府のインテリジェンス契約で大儲け。これら民間の契約社員は全体の29%だが給与の49%。レイセオン社は政府から人材を引 き抜くため、BMW1台と150万円の一時金を支払った。

ジェネラル・アトミックス社が開発した無人機はネバダ州の砂漠から遠隔操縦される。これを遠隔から監視し、攻撃命令を出すCIAのセンターはワシントンのブーズ・アレン・ハミルトン社近くにある。

2011/5にオサマ・ビン・ラーディンは殺害されたが、一旦できたトップシークレット・アメリカの組織と予算はそのまま残りそう。でもトップシークレッ トとして指定された秘密のほとんどはグヌーテラなどのファイル共有ネトワークソフトでSIPRNETに入り込めるのだ。トップシークレットにしようという試 みは人々の能力なさのゆえに必ず失敗する運命にある。

この本を読むと日本政府の無駄がかわゆくなるほどだ。

日本も米国にせっつかれて特定秘密保持法を制定したが、どういうことになるのだろうか?原発村や農薬村に次いで特定秘密村が異常増殖するのだろう。


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