シリアル番号 | 1069 |
書名 |
世界の多様性 家族構造と近代性 |
著者 |
エマニュエル・トッド |
出版社 |
藤原書店 |
ジャンル |
歴史 |
発行日 |
2008/9/30第1刷 2009/12/30第3刷 |
購入日 |
2010/9/19 |
評価 |
優 |
原題:La diversite du monde Structures familiales et modernite by Emanuel Todd 1999
鎌倉図書館蔵
著者は「帝国以降」の著者。
西洋に「特徴的な家族類型の分析によって、ヨーロッパ大陸のテイクオフをウェーバーの宗教的分類よりもうまく説明できる。それは権威主義で女性主義、縦型で双系制の家族構造がもつ根底的な働きによって識字率があがるという働きによってひきおこされたものである。両性間の関係がより平等主義的で母親に実際的な権力を委ねるこのシステムは、強い教育的な潜在力を持つ。活版印刷の発明からフランス革命にかけて、工業化や経済発展と独立して大衆の教育が発達したのは、スカンジナヴィア、スコットランド、ドイツといった権威主義家族の地域であった。
権威主義家族構造の自立的な働きを真に確認するためには、西洋の外、ユダヤ・キリスト教世界に権威主義家族構造をさがすと日本と韓国がみつかる。この二つの国は非西欧世界のなかでテイクオフを遂げた最初の 国である。特に日本は人類学的、人口動態的にみるとヨーロッパのテイクオフとほぼ時を同じくしていることが分かる。
識字率があがれば経済は発展し、人口は減少に転ずる。下表の教育的潜在力が識字率向上の指標となる。
家族類型 | 地域 | 家族構造 | 社会的反映 | ||||
相続 | 親子関係(権威) | 兄弟関係(平等) | 近親相姦タブー | 教育的潜在力 | イデオロギー | ||
権威主義家族 | ドイツ | 双系制 |
縦型 |
不平等 | 外婚制(強) | 非常に強い | 自民族中心主義的権威主義 |
日本 | 双系制 | 縦型 | 不平等 | 弱い規制 | 非常に強い | 自民族中心主義的権威主義 | |
絶対核家族 | イングランド | 双系制(母系偏差) | 非縦型 | 無関心 | 外婚制(強) | 中位+ | 自由主義的個人主義 |
平等主義核家族 | フランス北部 | 双系制(父系偏差) | 非縦型 | 平等 | 外婚制(強) | 中位 | 平等主義的個人主義 |
外婚制共同家族 | ロシア | 父系制(弱) | 縦型 | 平等 | 外婚制(強) | 中位 | 共産主義 |
中国 | 父系制(中) | 縦型 | 平等 | 外婚制(強) | 中位- | 共産主義 | |
インド北部 | 父系制(強) | 縦型 | 平等 | 外婚制(強) | 弱い | 不確定 | |
アノミー家族 | タイ | 双系制(母系偏差) | 非縦型 | 無関心 | 弱い規制 | 中位+ | 概念的に曖昧(オデオロギー的アノミー) |
中央アメリカ | 双系制(父系偏差) | 非縦型 | 無関心 | 弱い規制 | 中位- | 概念的に曖昧(オデオロギー的アノミー) | |
内婚制共同家族 | アラブ世界 | 父系制(強) | 非縦型 | 平等 | 父方平行イトコとの選好婚 | 弱い | イスラム |
非対称型共同家族 | タミルナドウ(インド南部) | 父系制(弱) | 縦型 | 平等 | 非対称婚 | 中位 | カースト制度+共産主義 |
ケララ(インド南部) | 母系制 | 縦型 | 平等 | 非対称婚 | 強い | カースト制度+共産主義 |
ここで
母系制:女性による財産の継承
父系制:男性による財産の継承
双系制:男性・女性いずれにも財産の継承
縦型:3世代世帯=権威主義家族
外婚制:兄弟の子供同士の結婚はしない
内婚制:兄弟の子供同士の結婚を推奨する
非対称婚:外婚制と内婚制の中間態で交叉イトコ同士の選好婚でカースト制度を生み出す
アノミー家族:全てに監視柔軟、不確定
なおアフリカは家族の形態が多様で不安定、従って、識字率向上は非常に遅い。
このような家族形態と地域、歴史、政治、経済上の相関関係は見られない。たまたま偶然によって始まり、代々継承されてきただけということのようだ。政治も経済もこの偶然によって始まった識字率の濃淡の結果といえる。
こう見てくると字が読めるということは重要で特にグローバル化時代に大衆が主要なコミュニケーションツールである英語が読めることが非常に大切となる。