第24回松談会

2004年12月4日の松談会は引退したN響ヴィオラ奏者の梯孝則(かけはしたかのり)氏の演奏と「オケマン生活38年」というお話であった。

氏は久留米市の出身、1962年国立音楽大学入学、1977年N響入団。2003年N響停年。現エクシモン弦楽四重奏団員。

ビオラだけではさまにならないと、テープに録音したピアノ伴奏を持参されての演奏であった。 自分が指揮して近くの人にピアノ伴奏をお願いしたが出来たテープを聞いてみるとモタモタした感じで指揮はむずかしいものだと認識した。ビオラは独奏楽器ではないため、ビオラのための曲はない。従ってチェロ用の曲を1オクターブ上げて弾くか 、バイオリン用の曲を5度転調して演奏する。5度かえると指使いがバイオリンとは違って弾きにくい。チェロ曲は指使いが同じのため、弾きやすく自然チェロ曲が多くなる。

演奏曲目とその解説

●ヨハンセバスチャン・バッハの「アリヨソ」

<解説>ヨハンセバスチャン・バッハはその名が「小川」というように近代西洋音楽も基礎を築いた人である。私生活では先妻アンナ・バルバラとの間に7人の子、後妻アンナ・マグダレナとの間に13人の子をもうけた。アリヨソはカンタータの一部で本来チェロ曲である。

●フォーレの「シシリアーノ」

<解説>梯氏はフォーレのレクイエムが一番好きだそうで、自分の葬式にはこれを演奏してほしいと家人にいっているそうである。

●サンサーンスの「白鳥」

<解説>これはチェロ曲である。テープに録音した16分音符の伴奏が耳にはいりにくく、伴奏とズレたら平にご容赦願いたい。

●ドヴォルザークの「ユモレスク」

<解説>バイオリン曲を5度転調して演奏。

ジーチンスキーの「ウィーン我が夢の街」

<解説>ウィーンは若き頃留学したかった街である。

●アンコール:「冬ソナ」

<解説>冬ソナを馬鹿にしていたが見始めたらハマッテしまった。そこでテーマ曲をピアノ伴奏なしで。

質疑応答

指揮者について:指揮者でリズムが変るだけでなくオーケストラの音色が変る。 なぜ変るかというと指揮者の動きをみながら弦楽器は弓をしごき、管楽器は息を吹き込む。指揮者の腕の動きの勢いが自然音に変換されてでてくるためである。というわけでオーケストラの演奏の成否はすべて指揮者の力量による といって過言ではない。団員から見れば、指揮者とオーケストラが顔をあわせてはじめての練習で、練習開始後15分間でその指揮者の力量がわかる。

最も尊敬する指揮者:ユーゴスラビア、クロアチア生まれのクリスチャンの指揮者、ロヴロ・フォン・マタチッチで1984年3月7日のブルックナー 交響曲8番のライブ録音は絶品。N響がこのように燃えたことはないと言われるが、団員としてその感動を味わった。CD(Denon COCO78551)がでているのでおすすめ。試聴したい人はNHK名曲集ブルックナー 交響曲8番(通称二度のブルハチ)を開ければ聞ける。

1962年の小澤征爾氏とN響のトラブルについて:梯氏の一世代前のN響とのトラブルで直接的には知らないが、小沢氏はまだ若く、持ち曲も少ないのに尊大で練習時刻には遅れるなどして団員が切れたのが真相であろう。1995年和解したが最近の小沢氏を見ていると不自然なくらい団員に気をつかっている。

コンサートマスターについて:指揮者に次ぐ重要人物で楽団員の意見を楽団経営者に伝えることの出来る唯一の人物。指揮者の首も飛ばすことができるかわりに、問題があれば自分の首もとぶ、という特別契約で収入もよい。楽団員は楽器の差なく同一賃金。ただし多少の年功給がつく。各楽器の主席も1-2万円の加給がある。N響では着席順はこの主席が恣意的にきめる制度となっていて団員には評判がよくない。来た順に着席するという楽団もある。

特定の独奏楽器奏者が健康上の理由でたおれると演奏会がキャンセルされる例:ショスタコービッチが練習中、ピッコロ奏者をいじめ抜いたところ、演奏中にその奏者が気を失って倒れ、演奏会は切符払い戻しのキャンセルになったこともある。

N響管理職について:芸大で音楽を学んだが、演奏家としては落第生がNHKに入り、芸能分野ではたらいたのち、N響管理職として天下ってくる。こういう連中が演奏プログラムを組み、指揮者やコンサートマスターを選んでいる。楽団員には発言権はない。

氏のビオラについて:N響は楽器貸与のため、自分のビオラは引退まで持っていなかった。引退時に自分はまだ弾けると認識し、あわてて買い求めた 。薄給の身には厳しいものであった。クレモナのビジャッキ一族の77才のマリオ・ガタが50年前に製作したものを買った。 マリオ・ガタが無くなれば価格が上がるのでそれも期待のうちである。弦楽器は表板がサクラ、裏板がカエデ製で古い楽器は音色はよいが湿度に弱い。新しいものは湿度に関係ないので とりあつかいが楽である。弦はナイロン芯のスチール弦で気温が変わっても音程は狂わない。 最近の若い団員はどういう理由かわからないが、高価な楽器を所有しているのでNHKは貸与を義務とはしなくなった。ベルリンフィルなどは音色の統一を重要視し、貸与方式を義務化している。これはクレモナ製の高価なものではなく、ドイツ製の安物である。しかしオーケストラとしての音色はよい。

弓について:弓はブラジル産の成フェルナンディコという長の遅い硬い木でつくる。高価なものは1,000万円するという。ちなみに氏の弓は150万円とのこと。

ホールの音響効果について:NHKホールは大きすぎて、団員は大音量を出すクセがついてしまい。外国の古く小さなホールで演奏すると騒々しすぎると苦情がでる。ウィーンフィルのホールは残響が大きいので弓をこすり続けなくともよいため、音が澄んでくる。日本の奏者はホールの関係でどうしても弓をこすり続けるクセがついてしまっている。サントリーホールも大きすぎる。札幌の北野ホールなどは最高の音響効果をもっている。

録音とホールの関係について:カラヤンなどは狭い部屋で録音することを好んだが最近は観客のいないホールを使い、カーテンを下ろすなどして残響をコントロールしながら録音するため演奏家としては特に困ったことはない。

座禅会

書院でおこなわれた講演と演奏会の間、書院のガラス戸越に見える本堂に参拝する大勢の若い女性達が音に気づき、寺と西洋音楽との組み合わせに驚いているさまがみえた。

演奏会の後、参拝客も途絶えた本堂に移り、30分の座禅を組む。3回目でだんだんわかってきたが、これは背筋を伸ばしてバイクに乗り、直線道路を疾駆しているときとおなじ効果が体に作用していると感じる。

夕食会

井上和尚がゲタをはいてキャロットにはいってきて、女将にこれで入っていいかい?まさかゲッタウトと言わないだろうねと駄洒落をいう。和尚は夏目漱石の「」に彼が東慶寺で経験した座禅を元にして書いたとおもわれる場面がでてくる。しかしこの小説はいわゆる不倫ものですねという。

ここで元毎日新聞記者山口道宏氏が飯山市の農業振興に肩入れしている西沢重篤氏の行動に興味を覚え、さかんに質問攻めにした。グリーンウッド氏は持論の

@後継者のいない農業を救うのはインターネットや宅急便を使った既存のルートをバイパスする流通ルートの新規開発

A農業をする意志のない人が相続した農地を地方自治体が一括管理する仕組み作り

を披露する。

隣に座った東慶寺檀家総代の山下氏はM商事のエネルギー部門の部員だった人とわかり共通の知人の話題で大いに盛り上がる。もう一人どこかで会った人ではと気になっていた人が、グリーンウッド氏が インドネシアのLNGプロジェクトで毎月ジャカルタを訪問したとき、お会いしたM商事 から千代田のジャカルタ事務所に出向していた三宅氏であると分かった。世の中は意外にせまいものだ。

December 4, 2004

Rev. April 17, 2006


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