AI等の最新デジタル技術導入によるプラントの最適な運転および保全管理を目指して 

2018/5/23

井川玄(しずか)

千代田化工建設株式会社

講師の経歴

慶応義塾大学・計測工学科卒、カタールLNG建設現場・コミッショニングマネジャー


講演要旨

プラントの最適運転と保守にディープラーニングの手法が使えないかとAIベンチャーのGRIDと共同開発を始めた。GRIDは50人程度のベン チャーで電力グリッドの需給調整にAIを使う構想で起業したスタートアップ企業である。ディープラーニング手法そのものはGRIDが開発した ∞ReNormというソフトを使うことにした。ニューラルネットワークは八層程度である。演算ハードはお決まりの画像プロセッサーGPUを使う。多分、自 動車の自動運転に使うNvidia社製であろう。

ディープラーニング用のビッグデータはまず、プロセス・ダイナミックシミュレーターで模擬運転して得られた時系列のビッグデータを使って学習したのちに、 制御用コンピュータ(DCS)から得た実運転データや機器の発するノイズ、震動、映像を学ばせる。出力はフォーミング予測、フラッディング予測、運転員へ の最適運転へのアドバイスと故障、機器故障の予兆予告などである。プラントに実装するのは2018年末を目標にする。

NASAが構想し、GEが風力タービンや航空機エンジンで実用化しているデジタルツイン概念をプラントにも適用したい。デジタルツインとは実物の完全なデ シタルモデルを作っておき、異常、故障、使用状況をモデルに入力しておき、学習させて、予測させ設計改良にフィードバックする構想である。プラントにこれを適用するのは As buildとして作成するプラントの3Dモデルが使えるであろう。これに運転中モニターする運転状況と配管肉厚データをリンクしておく。万一リーク事故な どが生じると即改良設計が可能となるし、リスクなしに設計安全率を償却できる。こういう技術を持ったコントラクターは安かろう悪かろうとなりがちなランプ サム競争入札圏外でコストプラス契約で安定的なメンテナンスサービスを提供できるようになるだろう。

米軍は全ての部品をつんだら船は沈んでしまうから、3次元プリンターだけを積んでおいて、何かが故障したらその部品の3次元設計図を伝送してもらい艦船の中で部品を作って交換するという手法をとろうとしてい る。プラントも同じで、すべての部品を備蓄するには資本がかかり過ぎるから部品を3Dプリンターで作ることになるか もしれない。これもデジタルツイン概念の範疇だろう。

東京電力が実施した電力需要予測コンペにこのディープラーニング手法を使って参加し、門外漢の千代田が98.5%の的中率で特別賞を受賞した。無論、最優 秀賞は東芝、第2位はTesla、第3位APIは日本気象協会であった。その条件は2009-2017/8/17までに日毎の電力データと 2017/8/18以降の2017/9/1のテスト日までの時間毎の電力データをAPI連携で直接受け取り、9/1以降1週間毎日朝8時にその日の電力予 想を予想前日までの気象実績で予測しAPI経由直送するという条件。


この講演後考えたこと

FIT制度が終って高額買い取り制度がなくなっても、もしグリッド価格で双方向の電力売買ができるようにすれば、間違いなく家庭向けグリッド価格 のほうが屋根に 乗せるPV電力より高価のため、PVがドンドン普及するであろう。しかしそれではPV電力が家庭電力需要をオーバーしてしまうためPV発電量に制限を加える必要がでてくる。そのとき電力は買い取り価格は 卸価格とするだろうし、発電量が需要を上回る場合はパワーコンディショナーを4Gなどの携帯無線で遠隔操作する「負荷制限運転」となるだろう。そうなると消費者であり自家発電業者である家庭は売れないPV電力の有効利用のためにバッテリー+屋根のPVで の オフグリッド運用が普及する可能性がある。問題はPVの価格は下がったがバッテリー価格はなかなか下がらないことにある。バッテリーコストがなかなか下が らないのは電子をたくわえる高価な物質と電極が接する巨大な面積が多層必用という要請があるためだ。これを巻き取ってショートしないように収納しなければ ならない。この組み立て作業に人件費がかかっている。固体リチウムイオン電池の電極と電解槽の多層レイヤーを構成材料を粉末にして吹き付け固体化する技術 を開発して3Dプリンターで全自動で「全固体型電池」を作るなんて発想が必用だろう。

FIT制度が終って高額買い取り制度がなくなればメガソーラー発電業者は卸市場でしか売れなくなる。そうなると彼らはAIのディープラーニング手法で予測 した需要予測から再生可能エネルギーのバックアップとして火力を卸市場で買い付け、手持ちのPV電力を家庭に直接販売する ビジネスに乗り出すだろう。ただこのとき、家庭の家族構成や持っている設備などのプライバシー情報なしで気象データだけで契約家庭の需要予測をできるかはい まだ未知。このとき、電力会社の「負荷制限運転」指令との干渉をどう処理するのか不明。

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May 24, 2018

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