政府機構再編論

日本政府機構は縦割り利権構造である。この弊害はしばしば指摘されてきたが、最近感じている日本政府の国際・地球環境への不適合が不合理な縦割りに起因し ていると思うので指摘したい。

日本を取り巻く環境の変化には2つある。一つは化石エネルギーコストの上昇傾向である。もう一つは科学的に正しいかどうか分からないが、英国のサッチャー 首相が始めたIPCCよる人為的温暖化説への対応だ。化石エネルギーコストの上昇傾向は現時点では一息ついているが、いずれ上昇するのは間違いない。人為 的温暖化説のほうはサッチャー女史自身は後に懐疑派に転じたが、どちらの説も決定打にかけて、日本政府なかんずく環境省はIPCCにたいして有効打を打て ていない。

日本は1970年代から二酸化硫黄による大気汚染防止目的でLNG発電と原子力が中心となっており、米国やドイツのような石炭火力はほとんどなかった。結果としてIPCCの要請前から二酸化炭素排出量はたまたま少なかった。原子力がダメになった 今、石炭を他国並みに増やしてどこが悪いかということを日本は主張できるはず。一人当たりの二酸化炭素排出量はIPCCの定義するデカプリングの条件を達成している と主張できるはず。にもかかわらず環境省は石炭火力はやめろとか、人為的温暖化説対応として石炭火力のCO2回収・海洋底究極処分をしろとか言っている。

日本を取り巻く環境変化がどうなろうと答えは一つで、化石燃料枯渇後は人類は遅かれ早かれ100%再生可能エネルギーに依存するようになるのは明らかで ある。ところが電力会社もこ れを管轄する経産省も再生可能エネルギー嫌いで原発依存という自己破滅的政策しか描けていない。原発を事故の補償リスクを冒して再稼働する理由も、すでに 投下した資金を回収したい という理由しか考えられない。ならばそう正直に表明して、寿命一杯動かしたいといえばいいのに、そういわないで、むしろ原発の許容寿命をのばそうという説 明のつかない行動にでる。

原発は今あるものを使い切るとすれば残りは化石エネルギーと再生可能エネルギーしかなくなるが、再生可能エネルギーは不安定で、とてもつかえるものではな いという理屈でいつ価格が上がるかしれない化石エネルギーに走る。今後価格がまだ下がる可能性を秘める再生可能エネルギーがなぜきらわれるかというと、9 つの電力会社が配電網を地域的に独占して来たためにいまだ全国規 模で余剰の電力を融通して、全国規模でバランスをとるシステムをもっていないためだ。地域毎にちまちまと需給バランスをとろうとするから不安定な再生可能 エネルギーの比率が高くなると、バランスが取れなくなるのだ。


縦割りにより発生する障害

風力やPVは確かに不安定だが、水力、地熱発電は無論のことバイオマス発電やゴミ発電はガス化せずとも通常の石炭火力のように負荷に追従して燃料投入でき る装置を持てば需給バランシングに使える。下水の嫌気性発酵ガス発電は負荷追従型の運転が可能のため、これらを不安定な風力やPVのバランシングに使うシ ステ ムを全国的に構築すればよいわけだ。ところがこれができないのはこれを管轄する経産省、環境省、国交省などが縦割りで決められた「過去の政策を継続する」 だけしかできておらず、互いに協力しないためだ。

経済産業省の事務官はゴミ発電を含む「再生可能エネルギー発電」を「高圧送電線系統に接続する高圧送電線の建設費負担」が必要なことを知っていても「高圧 送電線への建設費補助制度」を新政策として取り上げようとはしない。東大法学部卒業の事務官にとって、「ごみ発電」は結婚に響く(ごみ収集業への社会の偏 見?)から「ゴミ発電」にはかか わりたくないのだという。というわけで省内の大臣官房で「ゴミ発電を推進する政策」、「地熱発電を推進する政策」は嫌われ採用されない。結果として「高圧 送電線 の建設費(5億〜10億円)を負担せず、「ゴミ発電の出力は所内動力を賄う」にとどめ、回収した蒸気の残りは大気放出したがましである」という判断にな る。

(例:浦安市の「ゴミ焼却場のゴミ発電出力」は、「フル出力:1200KW可能な蒸気量のところ、所内動力相当分約800KW」に抑え、残りの蒸気は大気 放出」されている。)(大気放出量400KW=4KW太陽電池×100基分)

同じことは「地熱発電」でも繰り返される。「引き込送電線の建設費負担」を電力から求められるため、立地に苦しんだ。この「送電線建設費に対する補助金制 度」を設ければ、「再生可能エネルギー電力」は大幅に伸びるのだが。「電力基盤整備課」の課長様は「事務官:東大法学部卒」のため、何故か「引き込み線 の建設費補助金」には無関心なのだ。

同じ事務官は「再生可能エネルギーのバランシング」には「大型の蓄電池の建設」が近道だと考える。彼らは技術音痴のため、蓄電池を大型化すればコストが下 が ると錯覚している。電池はセルを並列に並べるしかなく、大型化しても発電装置とことなりコストは下がらないのだ。電力網に8yen/kWh支払い、蓄電池 に 同額かければ再生可能エネルギー発電は10yen.kWh以下でなくてはならず破綻する。蓄電池が生きられるのは風力は別にして、家庭向けのPVによる分 散発電のバランシングに使うときだけ。ようするに電力網とは独立のオフグリッド電力という新しいパラダイムに転移させる技術なのである。この転移が生じる と経産 省と電力会社の利権は消失する。

にも拘わらず経産省事務官殿は人為的温暖化説対応として税金を使って非現実的な水素自動車の普及をプロモートし、火力のCO2回収・海洋底究極処分などという再生可能エネルギーよりも高コストの方法を看板に掲げ て自分の天下り利権を夢見る。これは経産省にとって自殺行為であるということも気が付かないのだろうか?

文部省は原子力はすてられないとしてコストと安全性で意味がないとされたプルトニウムサイクルにしがみつき、意味のない「もんじゅ」維持に夢中で、大学への研究費は絞っているのに、こちらは維持しようとする。

ついでに脱線すると環境省は廃棄物処理法の管理者だ。同法第7条に「一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管 轄する市町村長の許可を受けなければならない」とある。熊本地震で支援物質を鹿児島港経由で配送したコンテナ業者が帰りの便で壊れた家屋の残骸物を善意 で運ぼうと申し出たが、同法に抵触するとして空で帰った。行政が法に忠実であろうとして復興に抵抗している構図。


現在の日本の所管官庁と下部機関、協会

電力:経産省、地域独占の電力会社

文部省:傘下の大学、研究機関

都市ごみ処理:環境省、地方自治体

下水:国交省、地方自治体

上水:厚生労働省、地方自治体

工業水道:経産省、地方自治体

農業用水(灌漑用水):農水省、

温泉排水:環境省、地方自治体

ちなみに米国の水行政は一本。したがって協会も1つのAWWAしかない。

May 24, 2016

Rev. May 25, 2016


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