玄界灘に突き出した大門崎。石の柱を何万本と集め固めたような柱状節理の絶壁が美しい。


節理はマグマの冷却面と垂直に発達,組成したもので、六角柱状のものが多い。


非常に細い玄武岩の柱状節理が、襞をなして海中に没している。


大門崎の山頂部。


大門の神窟。高さ8m、間口2〜10m、奥行90mの大洞窟となっている
 福岡県、糸島半島の北西端、玄海国定公園に属し「日本の白砂青松100選」にも選ばれている「幣(にぎ)の浜」の西端に、糸島を代表する景勝地のひとつ「芥屋の大門(けやのおおと)」がある。

 芥屋の大門は玄界灘に突き出した「大門崎」とよばれる小さな岬にあり、国内最大級の玄武岩の海蝕洞として国の天然記念物に指定され、佐賀県唐津市の「七ツ釜」、兵庫県豊岡市の「玄武洞」とともに日本三大玄武洞の一つとされている。
 海蝕洞は高さ64m、長さ180mの大門崎の先端部にあって、海面からの高さ8m、間口2〜10m、奥行90mの大洞窟となっている。

 吉田東伍の「大日本地名辞書」には「其形(そのかたち)恰(あたかも)亀の首を伸べたるに似て」と記されている。まるで衛星画像を見たかのような的確な情景描写に驚かされた。
 このような自然の造形は、どのようにしてできたものだろう。玄武岩の柱状節理は、太古の火山活動によって噴出した溶岩が、冷えて収縮するときにできるという。節理でできた岩山に玄界灘の荒波がぶちあたり、石柱が節理面から落下し、空洞ができたことで現在見られる奇観を形成したといわれている。

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 大門の洞窟は海に面しているため、芥屋漁港から出港する遊覧船に乗っての見学となる。港から大門までは1km余、5分ほどで玄界灘にそそり立つ大門崎の威容が見えてきた。遠目からでも縦方向に湾曲した柱状節理の精緻なストライプ模様を眺めることができる。

 船はゆっくりとおむすび型をした岩山の周囲を旋回し、岩塊の海面中央にある海蝕洞の入口に向かって舵を切り、スロー走行で幅10mの洞窟の中へ入っていく。海蝕洞の奥行きは90mというが、先に行くほど狭くなっている。船の入れるギリギリの地点、数10mほど進んだところで停船する。頭上を見上げると、空間に六角あるいは五角形の節理の断面が蜂の巣状に連なっている状態を間近に見ることができる。

 また大門の東側にも「鏡岩(かがみいわ)」「鯨岩(くじらいわ)」とよばれるひときわ目を引く大きな岩が並んでいる。この岩には、天女にまつわる伝説が残されているので、以下に紹介する。
 昔、鏡岩に天女が数人舞い降りて歌を歌っていたが、一人の天女が禁じられていた下界の俗謡を歌ったため、羽衣が石と化して飛ぶことができなくなる。一人鏡岩に取り残された天女は、天を仰ぎ許しを請うが、その声は大門にこだまするばかりだった。ついに天女は身をはかなみ、荒れ狂う海に身を投げ、鯨岩に吸い込まれてしまったという。
 鏡岩の上には今でも、天女の足跡と化石になった羽衣が残っていると伝えられ、しけの日には、鏡岩から天女の声らしい微妙な音色が聞こえるといわれている。

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 芥屋の大門をご神体として祀る神社に、福岡藩主も度々参詣したといわれる大門神社と大祖(たいそ)神社がある。
 大門神社については『糸島郡誌』(昭和2年刊、糸島郡教育委員会編)に「鳥居のみ海濱にありて祠なし。祠は即大門神窟なり。祭神は綿積大神(わたつみおおかみ)、大戸之道尊大苫邊之尊(おおとのじのみこと・おおとのべのみこと)を祀れり」とある。
 綿積大神は日本神話に登場する「海の神」で、大戸之道尊(男神)・大苫邊之尊(女神)については、「Wikipedia」に「大地の様子を表す神」で偉大な門口にいる一対の神とある。

 もう一つの大祖神社は、大門の裏手に鎮座し、社殿は大門を拝するように配置されている。『糸島郡誌』には、祭神はもと天照大神、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)、伊弉冉尊(いざなみのみこと)の三神であったが、明治44年に綿積神社、産屋神社を合祀して、彦波瀲武鸕鶿草葺不合尊(ひこなぎさたけうかやふきあはせずのみこと)、玉依姫命、草野姫命、底津綿津見神、中津綿津見神、上津綿津見神,底筒之男神、中筒之男神、上筒之男神、神直日命、大直日命、八十抂津日命(やそまがつひのみこと)を加へ奉斎せりとあり、口碑に伊弉諾命の禊祓いの霊跡にして、その當時より鎮座ありしものと伝えられている。と記されている。

 大門にまつわる伝承は、さまざまなものが残されている。①天照大神が隠れた天の岩戸の入口 ②祓戸大神(はらえどのおおかみ)の出現地 ③海神(わたつみ)が住むとされる竜宮城の入口 ④黄泉の国から帰ったイザナキが禊(みそぎ)をした場所 ⑤神武天皇が近くの可也山(かややま)で国見をし、芥屋の大門で禊したと伝えられる地 ⑥元寇の際の「神風」の吹き出し口などが挙げられる。
 「神風」の吹き出し口は、玄界灘の面した大門ならでは伝承であり、荒唐無稽な壮大さが面白い。

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2019年4月22日 撮影

大門洞窟内のハチの巣状の天井。





大門周遊遊覧の所要時間は約30分。
毎年3月から12月の間に運航されているが、
海が荒れていると欠航となるので事前の確認が必要
(電話 092-328-2012)。
料金は大人800円、子供400円。


芥屋の大門(右)、その左(東側)に立つ岩が天女伝説の鏡岩と鯨岩。