胃・十二指腸潰瘍について


消化器科・外科 川合クリニック 川合千尋



 胃潰瘍・十二指腸潰瘍は消化性潰瘍ともいわれ、胃液が自分自身の胃や十二指腸の粘膜を消化することによって起こります。私が消化器外科医になった20年前には、薬で治らない潰瘍にはしばしば手術が行われていました。しかし現在では薬が発達し、手術をしなければならない潰瘍は非常に少なくなっています。

 いったい胃潰瘍や十二指腸潰瘍はなぜ起こるのでしょう。胃液には塩酸である胃酸とタンパク質を分解するペプシンと言う酵素が含まれています。普通、胃液で胃や十二指腸自身の粘膜が消化されるということはありません。ところがいろいろな原因で粘膜の抵抗力が落ちると、部分的に消化されてしまい潰瘍が生じます。原因として長期にわたる消炎鎮痛剤の投与(慢性の腰痛や膝関節痛などで)、精神的なストレスや過労、大きな手術の後などが上げられます。また最近は細菌(ヘリコバクター・ピロリ)との関連が注目されています。私はオフィス街のビルで開業しておりますが、40から50歳代の単身赴任のサラリーマンに胃潰瘍や十二指腸潰瘍が多く見つかっています。これは単身というストレスに不規則な食事・生活、酒・タバコなどがかかわって発症しているものと思われます。

 症状はみぞおちの痛みや、重苦しい感じ、吐き気、食欲不振などです。背中が痛くなったりもします。空腹時に痛むことが多く、食事を摂るとおさまることもあります。診断は内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)で、潰瘍があることを確認します。胃あるいは十二指腸の潰瘍がはっきりした場合にはまず薬で治療を開始します。最初は胃酸を強力に抑制する薬を6から8週間使い、その後は種類を変え服用を続けるのが一般的です。これらの薬は非常に良く効きますので、ほとんどの潰瘍は手術しないで治ります。ただ非常に再発しやすい病気ですので、薬を中止するのが早すぎると1年間で半数近くが再発すると言われています。そこで胃カメラで治癒が確認された後も薬の量を半分に減らして、しばらくの間服用を続けることが勧められています。

 薬が良くなったからといって、手術が全くなくなった訳ではありません。潰瘍からの出血が止まらない場合、潰瘍のために十二指腸が狭くなった場合、潰瘍が深くなって胃壁を貫いてしまった場合(穿孔)に手術が必要となります。手術は胃の下の方3分の2位を切除するのが一般的ですが、胃酸分泌を抑制する目的で胃に入る迷走神経を切る手術もあります。また穿孔しても手術をしないでそのまま経過をみたり、おなかに3〜4ヶ所穴を開け、腹腔鏡を用いて穿孔した場所をふさぐ方法もあります。

 また最近は、なかなか治らない潰瘍でヘリコバクターピロリが確認された場合、これを薬で殺す治療も試みられていますが、まだ健康保険の適応にはなっていません。

 心身のストレスがあり上腹部に不調のある方は、早めに胃カメラ検査を受けて潰瘍の有無を確認する必要があります。


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