成人の鼠径ヘルニアについて

消化器科・外科 川合クリニック 川合千尋



 ヘルニアという言葉で何をイメージしますか。「腰」でしょうか、それとも「脱腸」でしょうか。「腰」と言えば整形外科領域の腰椎椎間板ヘルニアのことですね。私の専門の消化器外科の中では鼠径ヘルニア(いわゆる脱腸)が代表選手です。

 ヘルニアとは、臓器あるいは組織がからだの弱い部分を通って、本来あるべき場所から脱出している状態をいいます。からだのいろいろな部位に起こりますが、先に述べた二つが有名です。

 今回は鼠径ヘルニアのお話です。鼠径ヘルニアは足の付け根(鼠径部)が膨らむ病気です。これはおなかの内側の膜(腹膜)が鼠径部の腹壁の弱い部分を通って袋状にとび出し、その中へ腸などのおなかの中の臓器が脱出した状態をさします。小児に見られるものは先天的なものですが、成人では鼠径部の腹壁が弱くなることが原因で、後天的に現れてきたものです。中年以降の男性に多く見られますが、女性にも起こります。また鼠径部より少し足の方に出てくる大腿ヘルニアというものもあります。症状としては、立ち上がったり、おなかに力を入れると鼠径部が膨らみ、大きなものでは陰嚢まで膨らむこともあります。手で押したり、横になったりするともどるのが特徴です。膨らむと軽い痛みやつっぱり感を伴うことがあります。とび出たままもどらない場合(嵌頓状態)は緊急手術が必要になる場合があります。

 成人の鼠径ヘルニアの治療法は手術しかありません。現在、主に三つの方法が行われています。一つは古くから行われている方法で、ヘルニアの袋を根元でしばったあとに、腹壁の弱いところの周りの組織を糸で引き寄せることにより再発を防ごうとするものです。この手術では術後鼠径部のつっぱり感がしばらく続くのが難点です。手術は鼠径部を7〜8センチほど切開して行います。周りの組織を引き寄せるかわりに人工の膜(メッシュ)を入れて補強するのが二つ目の手術で、つっぱり感が少なくなります。三つ目の方法は5〜6年前から行われるようになった腹腔鏡下のヘルニア手術です。これはおなかに5〜10ミリ程度の穴を3つ開け、おなかの中からヘルニアを治す手術です。この方法はメッシュでヘルニアの穴を内側からふさいでしまうもので、術後のつっぱり感が少なく、手術後3日ほどで退院が可能です。これら3つの手術の中から患者さんの状態に適したものが採用されます。特に腹腔鏡下手術は、従来法で手術していて、その後再発した方に適しています。

 鼠径ヘルニアでお悩みの方は、手術を受けて根治することを考えてみてはいかがでしょうか。


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