持続的農業の確立

【1】農業の維持性と地球環境

滋賀県立大学環境科学部教授 久馬 一剛

@ FAOのプロダクション・イヤブック(農業生産年報)の最新版(1995年)によると、世界の就業人口の48%ほどが農業に携わっており、世界の陸地面積の37%ほどが農牧的利用に供されている。 現在の地球環境問題の中には、砂漠化や土壌塩類化のように、農業の中での誤った農地管理に起因する土地生産力の退化現象が、主として工業に起因する温暖化や酸性雨などと並んでリストアップされている。このことは、持続性に欠ける農業はそれ自体が環境問題の一つであることを示しており、それ故に農業の持続性を高めることが、即地球の環境を守ることにつながるのである。
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FAOが最近発表した世界食料農業白書1998年(SOFA98)によると、開発途上国における栄養不足人口は、1990―92年の8億2,200万人から1994―96年の8億2,800万人にわずかながら増加した。一方、開発途上国における栄養不足人口は、同期間中に20%から19%にわずかながら減少した。しかし、顕著な事実は、開発途上国全体の傾向に反して、最貧困国では、1969―71年以降栄養不足人口数及び割合ともに減少傾向が見られないことである。
FAO Press release 98/69,NES&Highlights,26 Nov.1998

1997・6世界の農林水産・巻頭言より抜粋
(社)国際食糧農業協会

 

【2】安定的食料供給の公共財的機能

岡山大学農学部教授 佐藤 豊信

世界人口は、現在、推計では58億5千万人で、西暦2050年には、94億人に達すると予測されている。毎年1億人弱の人口増加が予測されることになるが、この人口増加に対応して、安定的食料供給の可能性が危惧されている。19600年から1990年までの30年間に、1.6倍の人口増加に対し、穀物生産量は倍増し、食料需給は好転した。これは、化学肥料・農薬・農業機械の多量投入による近代農法の技術進歩によるところが大きい。しかしながら、この反動として、土壌侵食、地下水汚染、地下水枯渇等により、土地・水資源の生産力が低下しつつある。農業生産に本源的な資源の質的低下・枯渇が発生しており、将来における安定的食料確保に疑問符が投げ掛けられている。一方、我が国では、農産物市場開放、円高等により、農産物輸入量は大幅に増加しており、カロリー・ベースで見た食料自給率は42%にまで低下している。しかしながら、国民の多くは、飽食を謳歌しており、食料の安定確保に関して一抹の不安を抱いていないのが現状である。このような社会背景により、「農業の存在価値」の理由として、水源涵養機能、洪水防止機能、緑の景観等の公益的機能が上位にランクされ、安定的食料供給が下位ランクに移行しつつある感を否めない。前者の公益機能も、安定的食糧確保が可能であってこそ、意味を持つものであることを、忘れてはならない。通常、食料は市場経済システムを通じて取引きされる財と言われているが、食料供給が安定的セに確保されているという「安心感」あるいは「信頼感」は、国民に対する一種の「公共的サービス」と考えることができる。前回の米不足時には、米以外の食料は豊富にあり、わずかな米不足程度では、国民の生存が脅かされるといった危険性がないにもかかわらず、大変なパニックが発生した。安心感・信頼感がいったん崩れると、その修復には、多大の時間と困難性を伴うことを、肝に銘じておくべきである。

1997・9世界の農林水産・巻頭言より抜粋
(社)国際食糧農業協会

 

FAO・・・栄養水準と生活水準を引き上げ、農業の生産性を向上させ、農村の人々
の状態を改善する使命をもって、1945年に創設された。

  1. 情報活動
  2. 国際的な基準、国際的規約や協定の枠組みづくり
    コーデックス・アリメンタリウス(食品規格)・・食品に関する安全性の基準で、消費者保護のため重要である。

IFPRI・・・国際食料政策研究所

IRRI・・・・国際稲研究所