お話 16  年金について 



 年金制度については、昨年の11月の衆議院選挙当時から、国民の最大の関心事になっております。
この2004年5月は、国会議員の国民年金未納問題、未加入問題で官房長官、民主党代表が辞職し大揺れとなりました。

そこで、年金問題について、これまでと今後についてまとめて見ましたので、参考にしていただきたいと思います。

1、日本の厚生年金制度の開始理由
(昭和戦前期の日本・百瀬孝著 吉川弘文館発行 212頁を参照)

1)強制加入年金保険
 昭和16年法律第60号労働者年金保険法による「労働者年金保険」によって開始された。当初、事業所に使用される男子筋肉労働者のみの強制加入であった。
昭和19年に厚生年金保険と改称し、事業所の女子労働者も強制加入となった。これにより、保険料収入は激増したが、給付はほとんど無いために、積立金は巨額となった。

2)強制貯蓄
 この年金は労働者保護と労働力の保全のためであったが、当時の戦時体制化において、労働力の確保増強と、強制貯蓄的機能が期待された。
この強制貯蓄とは、国民に好きなものを買わせない政策であり、所得の中から強制的に貯蓄に回す政策制度である。この強制貯蓄によって、貧しい労働者は更に労働する事が求められ、更に強制貯蓄させられた事になる。
老齢年金は当初、資格期間が20年であり、年金保険給付はほとんど無く、即ち、戦費調達の有力な手段であった。
積立金が戦費に使われた事実から、戦時資金の調達を狙いとした事は、今日の通説のようである。

3)健康保険制度
 大正11年法律第70号健康保険法として公布し、健康保険組合、政府管掌保険ができた。その後、昭和13年に国民健康保険法が農山漁村民対象に公布された。 昭和16年小泉厚生大臣のときに、国民皆兵をもじって、国民皆保険政策が推進された。国は、財政悪化を理由に、「健康保険診療は患者の希望に応じてはならない」とした。このため、希望に応じてもらえない保険診療は減少し、保険財政は好転し、特別会計の 積立金が余りすぎてもてあまし、国債保有に運用した。

2、戦後の年金制度
1)設立時の目的を変更できたか
 前項のような、強制貯蓄による過度な労働は、その後も私たちの戦後の生活に強い影響を与えていたものと思われる。
目的は戦争のためではなく、所得倍増という掛け声であった。戦後の、生産性の伸びと労働力人口の伸びのために、矛盾はあまり表面化しなかった。しかし、現在にいたり、年金納付金の増加、給付額の減少、年金資金の損失、年金資金の無駄使いが表面化して大きな問題になっている。

2)年金制度の問題は何故防げなかったか?
 国民の老後の健全な生活等を確保する事より、資金調達を優先させて来た結果である。それは、毎年国の予算を承認してきた政治家に責任があると言える。そして、その政治家には国民年金を納付していなかった人が多い。つまり、国民年金の目的を福祉ではなく、資金調達をして、建設などを推進する財政投融資の資金としている事を確信していたと言える。政治家であったのであれば、任意加入時期(1986年以前)であっても加入していなかった事に責任がある。

3)物事の変動時期に対する対処
 物事の変動期には、安定期と比較し政治が難しいことは誰にでも分かる。それは、これまでの政策を変更する必要があるからであり、変動時にはどうしても、これまでの政策に行き過ぎ(オーバーシュート)、又は不足が生じてしまう。このダイナミックな状態でも安定を維持する必要があり、職業政治家はそれを仕事としており、先見性が求められ、その事を実行する責任がある。

3、年金一元化をどう見るか
1)文化的な最低限の生活
年金の一元化が叫ばれており、確かに今の複雑な年金制度を一元化したいと考えたくなる。それでは、どのような視点で一元化を考えればよいであろうか? 私たちの暮らしは憲法で、文化的な最低限の生活を保障されている。そのために、生活保護制度がある。
無年金者が増えると、生活保護を受給する人が増える傾向にある。生活保護の支給額の水準は、月額で大雑把に言って、@住居費が世帯あたり6万円、A食費が一人3万円、B光熱費、衣服費等で一人3万円である。それゆえ、2人家族では18万円程度である。
現在の国民年金の満額は7万円弱であるので、2人世帯とすれば、生活保護費より安い。

2)一元化の方向
マスコミなどの論調を見ると、各種年金の一元化をするという事は、「保険料と給付費を誰でも同一にする」が基本のようである。要するに、 最低の年金支給を行い、それ以上に付いては、各個人が民間機関の財テクで努力すればよいとの考えである。
小泉首相が議員年金の廃止を唱えているが、これが完全になくなるのではなく、名前が変わると理解すべきである。たとえば、議員年金がなくなると同時に議員の退職一時金制度を設けるなどであろう。
日本の国財政は1000兆円もの赤字であり、一元化により財政赤字の穴埋めをしたいと考えるであろう。そのために、年金資金が奪われないように気をつける必要がある。

3)誰が損失をこうむるか
既に厚生年金は500兆円程度が先食いされており、積立金は172兆円しかないし、これの目減りも相当ある。これまでの厚生年金加入者が
相当打撃をこうむりそうである。
国鉄共済、NTT共済、JT共済や農林共済の統合により厚生年金は打撃を受けた。今後、日本郵政公社共済の統合で更に打撃を受けそうである。これらによって、 公務員共済制度は健全化することになり、厚生年金との差は益々広がる。(毎日新聞:5月19日夕刊を一部参照)

4、望まれる年金制度
1)簡単で分かりやすい制度が良い。
2)基礎的な年金支給は税金で行うべきであり、国民に一定の所得保障をする必要がある。
3)公務員、民間被雇用者、自営業者、政治家、など誰でも同じ年金に加入(年金の一元化)すべきである。
4)年金受給資格取得期間は5年程度とするべきであり、現在の日本の25年は長すぎる。
5)税金による給付と掛金建て(払った分は受給できる)の併用が良い。

5、年金受給額の簡易計算
1)国民年金               加入年数x2万円=年間受給額(万円)
2)厚生年金(2階部分のみ)     加入年数x0.55x標準報酬年収(百万円)=年間受取額(万円)
厚生年金加入者は上記の1)2)の合計金額を受け取れる。
なお、年金受給資格は25年間の加入が必要(しかし、生年月日等により10年、15年などと短くなるので要注意)である。年金受給資格があれば、他の年金は1年だけ加入していても、その1年分については受給できる。


以上。