お話 9 佐倉市の調整手当て監査結果(全文を次に掲載します)
監査委員は「現状のままでは良くなく、適正なものにすべきであることは十分理解する」と述べています。
15佐監第48号−9 平成15年8月18日
藤 崎 良 次 様 佐倉市監査委員 伊 藤
佐倉市監査委員 守 田 和 正
佐倉市監査委員 清 宮 誠
佐倉市職員措置請求について(通知)
一 請求の内容
平成15年6月30日付けで地方自治法242条1項の規定により提出された「佐倉市職員措置請求書」(以下、本措置請求書による措置請求を「本件監査請求」といいます。)は、次のとおりです。
(請求の要旨)
1 佐倉市は給料の10%を調整手当てとして支給している。佐倉市は給料を決めるのに、千葉県の給料表を基準にしている。千葉県の給料表は人事 院の給料表を基準にしている。結局佐倉市も人事院の給料表を基準にしていることになる。
2 人事院は給料表を勧告する際に、民間との釣り合いを考慮して勧告している。そして、都心部などの物価が高い地域に対しては調整手当てを支給することで、地域間の釣り合いを保っている。
3 そして、人事院の勧告では、佐倉市地域は調整手当てが不要な地域となっている。しかし、佐倉市は10%の調整手当てを支給しており、その額は、年間約7億円になっている。
4 千葉県は調整手当てを佐倉市地区に対Lて、5%支給している。千葉県の給与と佐倉市の給与を比較すると、調整手当ての差5%(佐倉市10%と千葉県5%の差)は確実に佐倉市の給与が高くなっている。国と佐倉市とを比較すると佐倉市が10%高くなる状態になっている。
5 佐倉市は、近隣の市町村との釣り合いや職員の採用をかんがえて、調整手当てを10%支給していると述べている。しかし、公務員給与は民間との釣り合いも考慮して決めるべきである。平成14年度給料は、民間に比較して約2%高いと人事院は勧告したので、佐倉市も給料を約2%引き下げた。
これから考えると佐倉市の平成15年度給与は未だ10%も民間より高いと判断できる。採用に関する応募倍率はかなり高く、この点も調整手当てを10%支給する必要がない。
6 前述の如き不当な平成15年度の調整手当ての支給を防止もしくは是正して、適正な給与とするよう、厳正なる監査をして勧告をして頂きたい。
二 請求の要件審査
本件監査請求については、地方自治法(昭和22年法律第67号)242条所定の要件を具備しているものと認めました。
三 監査対象部局及び調査日
・職員課関係職員
・調査日 平成15年7月22日 佐倉市役所議会棟第三委員会室
四 請求人の陳述及び証拠の提出
請求人に対して地方自治法242条6項の規定により、証拠の提出及び陳述の機会を設けました。
陳述日 平成15年7月22日 佐倉市役所議会棟第三委員会室
証拠書類の提出
・住民監査請求(平成15年6月30日提出)にたいする証拠の提出及び陳述
・住民監査請求陳述提出資料
・給与勧告についての説明
五 監査の結果
本件監査請求について監査を行った結果、合議により次のとおり決定しました。
(結 論)
本件監査請求を棄却します。
(理 由)
1 調整手当は、民間賃金、物価及び生計費が特に高い地域に在勤する職員に支給される手当で、その地域における民間賃金との均衡を図ることにより、要員の確保を容易にするとともに、当該地域における物価、生計費の事情を配慮して、地域による実質的な給与の不均衡を是正する目的で、その給与水準を調整するためのものであると、されています。
本措置請求書の内容には、
@人事院勧告が佐倉市の調整手当に言及しているかのような記載、
A佐倉市の職員給与と千葉県及び国の職員給与との差額の原因が調整手当の支給率に起因するかのような断定的記載、
B佐倉市の平成15年度の職員給与が民間の給与よりも10%高いと判断できるとの断定的記載などがありますが、そうした記載は必ずしも正確であるとは言えず、断定できるほどの明確な資料が存在するとも言えません。
しかし、人事院規則によれば佐倉市は調整手当の支給地域には指定されていないこと、
佐倉市内在勤の千葉県職員に対する調整手当の支給率は5%であること、
人事院は平成14年度の給与について公務員給与が民間給与よりも高額であるとして、約2%の引き下げを勧告していること、
佐倉市の職員募集人数に対し就職希望者は多人数いて要員の確保が困難であるという事情は窺えないこと
等は事実であり、
こうした事実を前提にして、上記調整手当の意味・内容を検討すれば、市職員に対する調整手当は現状のままでは良くなく、適正なものにすべきであるという
監査請求人の指摘は、十分に理解することができます。
2 そこで法令をみてみますと、地方公務員(一般職)の給与についての法律のうち、本件監査請求に関係すると思料されるものを挙げると次の@ないしCがあります。
@地方公務員法24条3項「職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない。」
A同法同条6項「職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める。」
B地方自治法204条2項「普通地方公共団体は、条例で、・・・扶養手当、調整手当、住居手当・・・退職手当を支給することができる。」
C同法同条3項「給料、手当‥・の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない。」
そして上記法律に基づき、佐倉市は、「一般職職員の給与に関する条例」(昭和32年佐倉市条例第32号)を定め維持しています。
佐倉市では、昭和53年4月1日から調整手当の支給を開始し、その後支給率を4回変更して、昭和62年4月1日から支給率を「給料、管理職手当及び扶養手当の合計額」に対する10%の割合としています。
その率を給料等の合計額の10%としたのは、上記条例の一部を改正する条例(昭和62年佐倉市条例第3号、以下「本件改正条例」と言います。)であり、その第8条の3第1項は、
「職員に調整手当を支給する。調整手当の月額は、給料、管理職手当及び扶養手当の月額の合計額に百分の十を乗じて得た額とする。」となっています。なお調整手当は、千葉県内の全ての市町村で支給されており、そのうち支給率10%の市は、佐倉市を含めて18市あります(平成15年4月1日現在)。
以上の次第ですので、佐倉市長が上記法律及び条例に従って、予算に裏付けられた調整手当の支給をすることは、手続上、違法、不当な点はありません。また、本件改正条例の内容の不当を理由にして、佐倉市長は、その実施を拒否することはできません。なぜなら佐倉市長は、条例、予算その他の事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負っているのであり(地方自治法138条の2)、条例の制定及び改廃並びに予算の決定は、佐倉市議会の権限事項だからです(同法96条1号、
2号)。このように佐倉市長には、調整手当の廃止、支給率の変更等をする裁量権限はないのですから、権限の裁量の範囲内における当・不当の問題は生じません。また本件改正条例の内容が明らかに違法であると断定できる法的な根拠も見当たりません。
したがって、本件監査請求は棄却せざるを得ません。