ラーメンズ第14回公演「study」
ラーメンズといえばモジャモジャ眼鏡と地味な相方という印象しかなかったのですが、最近、コントのビデオでその面白さを発見しました。ラーメンズとは片桐仁と小林賢太郎のユニットです。以下は第14回公演「study」特別追加公演千秋楽(2004年2月26日@ル・テアルト銀座)の地味な報告です。随時追加&変更予定。タイトルはすべて筆者によるものです。
「万引き」
すぐに連想したのは、おそらく『模倣犯』や『MONSTER』をヒントにしたであろう、インパルスのコント。軽犯罪者が法を超越した存在であることを装おいながら最終的には現実に屈服するという構造だ。ここでは万引きの現行犯で捕まった男(小林)が哲学的で壮大な理屈や格言のようなものを持ち出し、アルバイトと思われる純朴な青年(片桐)をけむに巻く。「そんなこと言われましても……あなた万引きしましたよね?」と疑いを捨てきれないものの、片桐はなかなか強硬な態度をとることができない。インパルスのツッコミ、堤下が演じる強気なキャラとは真逆の、その“おどおど具合”も注目だが、見せ場は明らかに、うさん臭く詐欺師のような小林の表情や喋りだろう。片桐の遠慮がちな非難をさえぎるように、「私の国に、こんな言葉があります」とゆっくり、堂々と、そして尊大に語る小林。とにかく器のでかさをアピールするところが逆にその人物の小物っぷりを感じさせて笑える。「私の国」ってどこやねん……とは、あえて聞かずとも、嘘を嘘で固めたような万引き犯の人生をもうちょっと知りたいと思わせる。かもしれない。
「自白」他人の家に侵入し、食事をすませ、風呂に入り、ソファでくつろぎながらDVDを鑑賞し、とうとうお泊まりしてしまう──理由はさておき、そんな行動をとってしまった青年(片桐)が、その父親と思われる初老の男(小林)とともに、何者かに訊問されているという設定。ユニークなのは、訊問内容が伏せられ、「僕はそんなことしていません」といかにも心外な様子で抗弁する片桐自身の口から、その「犯罪」の一部始終が徐々に明かされてしまうことだ。
たとえば「家宅侵入どころか、僕はそんな街に行ったこともありません!」と主張するそばから、行った者しか知り得ないような情報を、勢いあまってポロポロと口走ってしまう。それを指摘され、動揺しつつも強気な態度は崩さず、謝りながらもすぐに開きなおり、さらにボロを出す……といった具合だ。
ケッサクなのは、その間、謝る片桐をフォローするように「つまり彼が何を言いたいのかというと……」とすかさず割って入る小林の解釈がまったく的を得ない話であることだ(厚かましい態度とは裏腹の気持ちいいくらいの無責任!)。片桐は片桐で、そんな小林の言動には我関せずといった様子で「たしかに僕は何々しましたよ。でもね!」と逆ギレ気味に言い訳を再開。そしてすかさず小林もそれに乗じて「でもね!と」と合の手を入れ、身を乗り出す(見事なまでの節操のなさ!)。
いささかくどくなってしまったが、ようはこのパターンのバリエーションが、漫才のようなリズムとコンビネーション、しかもツッコミなしで怒濤のように展開するというわけだ。本作は本公演のなかでもっとも分かりやすく、ノリやすいものだった。しかしまだまだこれだけではない。
「Q&A」
小林の問題(音声のみ)に片桐が解答するという趣向。「Q」「A」、「質問」「解答」、「聞く」「言う」など、対になる単語を混ぜつつ、クイズあるいはパズルのような問題が少しずつ変化しながら、次々と出題され、ほぼ一定のリズムで解答(ボケ)が与えられる。きっちりとしてて気持ちいい。笑えるというより「ほほう」という感嘆が先に立つ知的なコント。
会場が次第に知恵熱で暖かくなり、このまま最後まで突っ走るのかと思いきや、「ダンスで答えよ」という条件だったか忘れてしまったが、肉体的パフォーマンスを求められ、音頭(「ムシバラス音頭」)に合わせた観客の手拍子に追い詰められた片桐が、ひたすら踊るというか踊り狂うというか妙なポーズを決めまくるという意外な展開が二回あった。もちろん正解などない。みんな片桐が好きなのだ。盛り上がりがピークに達し、もうこれ以上絞っても何も出てこないだろうという満足感からか拍手がまばらになる。直立して判決を待つ片桐。「合格。」という小林の一声にほっとする表情が印象的。ラーメンズの二人の関係を分かりやすく示した、お笑いというよりパフォーマンス的な側面が強い一作。
「サイエンス君」
顔の部分を切り抜いた、豆電球の被りもの姿の片桐が登場。それだけで会場に笑いが起こる(筆者はそこまでは馴染んでいないのですが)。 舞台は子供向けの科学教室。「サンタは本当にいるの?」「ネッシーは本当にいるの?」といった無邪気な質問に丁寧に答える熱血な学生(小林)と、それを冷淡に眺める教授(片桐)。とはいえ外見が外見なので、この時点で片桐の存在の怪しさが光る。そして我慢できなくなったのか、小林の“近所のお兄ちゃん的トーク”を遮り、前に出て子供目線に合わせてしゃがみこみ、「お前ら、よく聞け」と安岡力也ばりにドスの利いた声で、夢もへったくれもない解説を披露する。度を超した子供じみたシニカルさが滑稽。小林は片桐の態度を諌め、口論は次第になんだか感動的な話に……。
「あのころを思い出してよ!」みたいなテレビドラマの使い古された設定を使い、笑いを感動にシフトさせる手法。上司と部下を夫婦に置き換えても展開できそうだ。(つづく)
top