〜 キミの笑顔 〜

 3月に入ってまもない頃。
 降り積もった雪も解け、芽吹き出そうとしている木々は、春がだんだんと近づいているのを知らせていた。
 そんな時季、吹雪は放課後の教室で大きなため息をついては唸っていた。
「う〜ん」
「何唸ってるの? 変なものでも食べた?」
 眉根を寄せて考え込んでいた吹雪に声をかけてきたのは千尋だった。
「何よ、それ。アンタのくれたおにぎりなら食べたけどね」
「美味しかったでしょ?」
 そう訊かれ、答えに一瞬間があく。
 微笑む千尋をちらりと見た後、吹雪はぼそっとつぶやいた。
「……まあね」
 その答えに満足したのか、千尋は大きくうなずく。
「吹雪ちゃんのは特製だからね。なんなら今度は3段重ねのお重弁当でも作ってこようか?」
「罠じゃないなら食べるけどって、なんでそんな話になるのよ?!」
「さあ?」
 いつの間にか千尋のペースで話が進んでいることに気づいて慌てる吹雪に対し、千尋はいつものペースをくずさない。
「もう、邪魔しないでよ。一生懸命考えているところなのに」
「何考えてるのさ?」
「小林クンの誕生日プレゼント。もうすぐ誕生日でしょう? 今から準備しておこうと思って。小林クンが喜ぶような何かいいプレゼントってないかしら」
「小林クンの喜ぶものねぇ……。罠バースデーケーキとか、罠びっくり箱とか、罠ブックシリーズ全10巻とか。あ、罠ブックシリーズは文庫サイズもあって持ち運びラクだけど。じゃなかったら罠フルコースディナーなんてどう?『当ビストロにはメニューはございません。お客さまのお好きなものを何でも作らさせていただきます。何がよろしいでしょう?』とか言ってベル鳴らしながら『オーダー!』って吹雪ちゃんやらない? そしたら俺が腕振るって罠料理を作るよ♪」
「……アンタなんかに訊いたのが間違いだった」
 吹雪は呆れたようにそう言ってふいっと横を向いた。
 罠、罠って、いくら千尋が罠好きでも、それじゃ小林クンのプレゼントにならないっていうの!
 心の中で文句を言いながら、もう一度吹雪は考え込んだ。
「何でもいいんじゃないの?」
 ふいに千尋がぽつりとつぶやいた。
「えっ?」
「何でもいいって言ったの」
「だから! プレゼントなのよ?! 誕生日の。小林クンの! 何でもいいわけないじゃない!」
 こっちは真剣に考えているのに、なんていい加減なことを言うのだ。
 思わず吹雪は立ち上がって、机をバンッと叩いた。
 放課後とはいえ、教室にはまだ何人か残っている。そのクラスメート達が一斉に吹雪を見た。
 吹雪はそれに気づいて、思わずじろりと視線を向けてしまう。その途端、クラスメート達は慌てて様子で教室を出ていった。
「もういいわよ。1人で考える」
 吹雪はカバンに教科書類を入れると立ち上がった。 
「俺だったら吹雪ちゃんが選んだものなら何でもいい」
「えっ?」
 歩きかけた吹雪は立ち止まって振り返る。
「吹雪ちゃんが俺だけのことを考えて、俺のために選んだプレゼントなら、ひとかけらのチョコでもいい。プレゼントって気持ちじゃない? 確かに相手が喜ぶものをあげるのが一番いいかもしれないけれど、相手のことを考えて選んだプレゼントなら、どんなものでも相手は喜ばないわけないよ」
「……」
「小林クンなら吹雪ちゃんが笑顔で『誕生日おめでとう』って言うだけでも嬉しいと思うよ」
「……そう、なのかな?」
「吹雪ちゃんは知らないんだよ。吹雪ちゃんの笑顔が威力絶大だってことに」
「笑顔に威力絶大って何か表現違わない?」
 吹雪は小さく笑う。
「で、おめでとうって言った後にほっぺにキスでもしてくれたら、もういうことないんじゃない? ちなみに、俺の時はそれでもいいよ♪」
「ば、ばかなこと言わないでよ! 誰がキスなんて!」
 頬を赤く染めて吹雪は慌てた。
 笑顔で誕生日おめでとう。 
 自分もハートフルでミラクルキュートな笑顔の大和にそう言って欲しいと、誕生日の日に思っていたことがあった。
 プレゼントは気持ち。
 値段でも大きさでもなく、気持ちが込められていたならそれがプレゼントになる。
 千尋の言葉に改めてそう思った。
 でも。
「や、やっぱりダメよ。おめでとう言うだけなんて。そんなんじゃ小林クンに申し訳ないわ!」
「じゃあ、去年みたくクラスの奴らでハッピーバースデーを歌ってあげたら? これなら確実に喜ぶんじゃない?」
「ううん、去年と同じじゃダメよ。去年よりももっと喜んでもらえるようにがんばらなきゃ。こうなったらアンタには最後までつきあってもらうからね」
「いいよ。吹雪ちゃんと小林クンのために力を貸しましょう♪」
「……今♪マーク出さなかった? 罠はなしだからね!」
 そう言って吹雪は先に歩き出した。千尋も自分のカバンを持つと、吹雪の後に続こうとする。
「俺が罠なしのプレゼントなんてあげたら、小林クンびっくりして倒れるって。あ、それもおもしろい罠になるかも……」
 千尋はにやりといつもの楽しそうな笑みを浮かべた。

 

キミの笑顔が見たいから
私も笑顔を忘れない
 

 Fin  


<ちょっとフリートーク>

2002年罠企画参加作品その1です。
大和クンお誕生日記念SS……主役の大和クンが出てきません(^^;)
吹雪ちゃんとちーさんが選ぶプレゼント、一体どんなプレゼントになるやら?
好きな人にプレゼントを用意する時って楽しいですよね。
LaLa2002.3月号で、大和クンがあげはちゃんに『思いついちゃったんだよね、これを受け取ってくれる時の先生の嬉しそうな顔』と言ったシーンがあります。
相手の人の喜ぶ顔が見たいから、何でも頑張れちゃうような気持ち、わかります。
買うにしろ、作るにしろ、その瞬間は相手の事だけを考えているわけですから、相手も自分だけのために用意してくれたんだと思うと嬉しくなると思います。
そして、プレゼントをあげる時は笑顔を忘れずに♪

  

 

  


 

●感想はこちらからでもOKです。ひとことどーぞ♪     

お名前(省略可)            

感想